今回は、これまでのおさらいという意味も込めて、「ユーザビリティ」という観点から都道府県サイトにある知事のページをチェックしてみた。

 「知事のページ」「ようこそ知事室へ」「インターネット知事室」・・・。名称こそ違え、「都道府県サイトにはほとんど必ず知事のページがある。自治体首長が自らのプロフィールを紹介し、所信を表明することは、自治体サイトにおいて欠かせない要素だろう。

 知事は県の顔であり、県政を引っ張るリーダーだ。知事の方々がどのようにウェブサイトを利用しているのか、知事のページのユーザビリティはどうなっているのか。8月4日時点での各都道府県のウェブサイトを、興味津々で調べてみた。

■そろえたいリンク名とリンク先の見出し

 辞職にともない知事が不在の埼玉県を除いて、全都道府県でウェブサイト上に知事本人が登場し、メッセージなどを発信していた。

 多くの自治体サイトではトップページから平易なリンク名で誘導し、知事の動静やメッセージを自治体の内外に知らせていた。トップページに知事ページへのリンクがない栃木県と、トップページのリンクが知事ページに直結していない宮城県以外は、比較的分かりやすいナビゲーションだと思う。

■宮城県の「知事ナビ」

■「知事ナビ」の「知事」アイコンをクリックすると秘書課のページに飛ぶ

宮城県の知事ナビ

宮城県の秘書課のページ

知事自らがサイトを案内する、宮城県の「知事ナビ」(左)はユニークだ。しかし、トップページに「知事ナビ」とは何かの説明がないので、せっかくの面白さがビジターに十分伝わらない。また、「首長の見解」のような、知事ページの一般的な内容を期待するビジターにとっても、目的のコンテンツが探しにくい(階層が深い)。一度素直に知事のページに誘導して、知事ページの一機能として、「知事ナビ」を置いた方が使いやすいし、知事への親しみも増すのではないか。


 次に、トップページのリンク名とリンク先のページ見出しの関係についてチェックしてみよう。ほとんどのサイトでは、リンク名とリンク先のページ見出しは同じ(または同じ意味と分かるもの)だった。青森県長崎県のように、ページの見出しとTITLEタグには、「自治体名」「知事のページ」という情報を明記してあれば、検索サイトなどから知事ページへたどりつくビジターにも分かりやすいので、さらによい。

 ただし、中にはビジターを戸惑わせるページもあった。例えば山梨県では、トップページ上のリンク名は「知事の部屋」だったのに対し、リンク先のページ見出しは「山梨県秘書課」。この見出しのズレはビジターを混乱させることになるので、早急に改める必要がある。

 リンク名は「知事のページ」などと一般的なのに、飛んだリンク先は「こんにちは×山△助です」といったような知事個人のホームページに近い見え方になっているケース(千葉県福井県和歌山県)も、筆者にはやや違和感があった。長野県の場合は、トップページから知事のページへ向かうリンクに個人名を使っており、「長野県知事の田中康夫と申します。」というリンク名だった。話題の知事だけに分かりやすいが、公的なサイトのトップページに掲載するリンク名としてふさわしいかどうか微妙だ。

 リンク先ページの見出しとして、知事の個人名を前面に出したいなら、せめて鳥取県のように、知事ページの中にある一コーナーである「知事メッセージ」のページまで我慢する方が、行儀のよさを感じる。

■鳥取県の「知事のページ」

■知事のページ内にある「片山善博の素顔に迫る」

鳥取県の知事のページへ

知事メッセージ(片山善博の素顔に迫る)へ

鳥取県の公式サイト「とりネット」では、トップページに「知事のページ」というシンプルなリンク名を設け、そこから「知事のページ」にリンクしている。さらにそこから「知事メッセージ」をクリックすると「片山義博の素顔に迫る」というメッセージを発信するサイトにたどりつく。「知事メッセージ」というリンク名には、リンク先のページの内容について補足説明があるので、ビジターはコンテンツを予想しながらリンクをたどることができる。


 都道府県の例ではないが、ある政令指定都市サイトでは、まったくドメインの異なる、市長の個人的なホームページに堂々とリンクを張っている例があった。公的な自治体サイトの中の首長ページだ。個人ページは公的なサイトとは別に切り離して設けなければならない。

■知事の顔写真は意味のない飾り!?

 目の不自由なビジターにとって、ページ見出しとなるTITLEタグは、音声ブラウザを使ってリンクをたどっていく際に真っ先に読み上げられる。したがって、TITLEタグはページの見出しとそろえておくべきだ。

 今回調べた知事ページでは、TITLEタグとページ見出しとで、ほぼ同じ内容を示す文言を使っていた。ただし、TITLEと見出しが「秘書課」となっている山梨県、宮城県のようなケースは、知事のページかどうか判断に迷ってしまう。TITLEの名称は、内容を分かりやすく示すものにしたい。

 同じく、目の不自由なビジターへの配慮として重要な、画像の内容を示す時などに使うALT属性は、さすがに知事のページだけあって、ほとんどの自治体がきちんと用意していた。しかし、なぜか知事の写真にだけALT属性を張っていないケースがあった。特に意味のない装飾的な画像には、ALT属性を付けないか、または「ALT=" "」と半角スペースの属性を付けるの一般的だが、知事の写真は“特に意味のない飾り”というわけではないだろう。

 もう一つ気になったのは、ALT属性を写真のキャプションとして使っている例が散見されたことだ。ALT属性は目の不自由なビジターに、ページ内容を知ってもらうための仕掛けだ。どんな画像があるのかを簡潔に説明したい。ローマ字は原則として問題なく読まれるが、個人名だけではどんな画像があるのか分からないこともあるだろう。「○○県知事の顔」といったように、具体的に写真を説明した文言が望ましいだろう。

 なお、知事ページへのリンク名とそのリンクがある場所、リンク先のページ見出し、リンク先のTITLEタグなど、ナビゲーションについて調べた結果を別表にまとめた。ご興味のある方はご参照を。

古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。