基調講演
「行政経営・住民視点でのITガバナンス」

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 客員教授
岸本 周平氏


岸本 周平 氏
国際大学グローバル・
コミュニケーション・
センター 客員教授
岸本周平氏

 「行政経営」は、言葉としては簡単だが、実際のところ「行政」と「経営」の二つはなかなか結び付かない。理由は簡単で、役人は「経営」の経験がないからだ。

 私自身も2000年に政府ITシステムの安値調達問題が大きくクローズ・アップされていた時期に、当時の通商産業省(現在の経済産業省)に担当課長として在籍。その後、退職して民間で働くようになって1年超が過ぎたが、考えた施策を実行に移すことの難しさを実感している。

 システムの安値落札問題では、経産省在籍時に大山永昭・東京工業大学教授を中心にして勉強会をスタート。調達制度そのものを変えるとともに、外部専門家(CIO補佐官)を入れるべきという結論になった。

 当時、政府IT調達のあり方に関する講演を行う機会があると、市場はNTT、富士通、NEC、日立の4大グループによる寡占状態となっており、「政府調達が食いモノにされている」と赤裸々な告白をしたこともあった。いかに裸の王様のような状態だったのかを知らしめるため、意図的に対立構図を煽った面もある。

■信頼関係をいかに築くか

 しかし、現在では、もう対立構図で議論する必要はなくなったと思う。今年5月の連休に米国政府の調達担当機関(OMB)を訪問してきたのだが、米国では政府調達においては、ITシステムはいまやBuying(買う)ではなく、MakingまたはEstablishing(自ら作り確立する)ものと考えられている。ITベンダーとはパートナーとしての信頼関係が重要で、一番美しいのは随意契約という考えが常識となっている。

 米国では、随意契約であっても政府調達のコストがすべてオープンになっていて、それにマージンを乗せる形を取っている。日本のようにすべてを一般競争入札に持ち込みたがり、結果として損をしているのとは大違いだ。すべてをオープンにしたうえで、パートナーとしてシステムを作りこんでいくことを、今後の政府IT調達の基本とするべきだろう。

 民間企業を見てみると、トヨタ自動車でも米国に似た調達体制を採っている。大規模システムの調達時には、会社ではなく個人で選ぶ。優秀なプロジェクト・マネジャーを集めチームを作って、そこにすべてを任せる。発注者は生産性の低いものができないようにチェックする。コスト管理にもインセンティブを働かせる。例えば、100億円で契約した大規模システムが95億円で仕上がったとすると、予算を節約したことに対して発注担当者にボーナスが出る。受注者側もボーナスがもらえるほか、次の入札の時に金額面で下駄を履かせてもらえる。こうすることで限りなく随意契約に近づいていく。

 日本政府のIT調達では、合理的な見直し方針を打ち出したつもりだったが、現実にはなかなか実行されていない。2004年度実績を見ると、総合評価落札方式はかなり利用されてきたが、ジョイント・ベンチャー(JV)や中小ベンダーからの調達はほとんどなかった。この部分をどうするかが今後の課題だ。民間のITに詳しい人材を登用するCIO補佐官も、うまく機能している府省とそうでないところでばらつきがある。人選の段階で、CIO補佐官に何を求めるのかが明確になっておらず、彼らの助言を生かしきれない府省もある。

 地方自治体におけるIT調達については、先進自治体とそうでないところの格差が大きく、どの程度の差が生じているのかを数値化する研究を進めているところだ。