基調講演
「これからの自治体サイトに欠かせないWebガバナンス」

日経BPコンサルティング 調査第三部チーフコンサルタント
古賀雅隆

古賀雅隆
日経BPコンサルティング調査第三部
チーフコンサルタント
古賀雅隆

 古賀は冒頭で「JIS X 8341-3(ウェブコンテンツJIS)の発効とは、高齢者・障害者への対応により、Webサイトを誰にでも使えるようにしていくという意味がある」と説明。WebサイトはJIS制定によって「ごく普通のメディア」として、広報・公聴・住民サービスの展開を図るチャネルとなり、一般の窓口などと同じ機能を持つようになることを指摘。その上で、部門ごとに開設・管理するのではなく、全庁を挙げてWebサイトを統一的に管理するという考え方を「Webガバナンス」と位置付けた。

 古賀はWebガバナンス実現のためのポイントとして、次の4点を挙げた。

  • アクセシビリティの向上
  • 個人情報の保護・管理
  • 安心して利用するためのセキュリティ高度化
  • ナビゲーションをリンクなど、デザインルールの確立

 こうした取り組みを行う結果として、Webサイトの高度活用や住民サービス・事業展開の利便性の向上が見込めるとした。また、Webサイトと各種のチャネル、他のメディアとの融合や相互活用が進んでいくという、将来の方向性とも合致しやすくなるという見通しも示した。

 Webへのニーズが高まるにつれ、コンテンツの個々の担当者だけに頼ってサイトを運営していくのには無理が生じるため、「サイト自体を一定のルールに従って構築・運営・管理していかないと、時代の要求には応えられないだろう」との見解を示し、「そこでWebガバナンスという発想が必要となってくる」と強調した。

 また、リスク管理という視点からも、環境の変化があったと指摘。情報提供のスピードへの配慮から、自治体サイトに関わる関係者の数が増えており、極端に言えば「誰もがサイトを作り、誰もがWeb上の情報に触る機会を持つ」という時代になっている反面、情報リテラシーが高くない関係者も関与してくるため、セキュリティ面・ユーザビリティ確保の面でリスクが増大することからも、Webガバナンスが有効であると説明した。

 その上で、自治体サイトにおけるWebガバナンスの要件として、以下の5点を挙げた。

  • 利用者に向いたユーザビルティの確保、高齢者や障害者など誰もが使えるアクセシビリティの拡充
  • 住民が安心して個人情報を提示できる個人情報保護
  • 電子申請など、Web利便性の拡大
  • 観光・産業振興などのために自治体イメージの構築(ブランディング、マーケティングに基づいたサイト構築)
  • 災害などの非常時に、部署をまたいだ統一的な情報提供

 続けて、Webガバナンス実現へ向けた具体策としては、「全庁のWebサイトを統括管理できる部署を設ける」ことを提案。その部署の中には「Webサイトのユーザビリティ、アクセシビリティ、情報内容や編集方針、Webサイトに関連した技術に詳しいスタッフがおり、トップには他部署との調整権限や全庁にルールを守らせる権限を持たせることが理想の姿」とした。

 ただし、大きな権限を持った部署の設置は、現実的には難しいことから「責任を持ってサイトの基本構築方針、運営方針、活用の方向性、各種規定・ガイドラインを定められる部署を設けることが望ましい」という現実的なラインを示した。その上で全庁と調整の上、責任部署が定めた方針を守るために、全庁的な研修を行ってルールを浸透させることが欠かせないとの見解を述べた。庁内各部署が参照できる規定類としては、最低限整備したい規定類としては、次の7項目を挙げた。

【庁内向け】
  • デザインガイドライン(設計思想)
  • ユーザビリティガイドライン
  • アクセシビリティガイドライン
【Webサイト閲覧者向け】
  • プライバシーポリシー(Web上で収集する個人情報について)
  • リンクポリシー
  • 著作権規定
  • 免責事項

 今後は属性の確認や、テキストのフォントサイズといったデザインルールの徹底はもちろんのこと、サイト内回遊状況までも含んだアクセスログ解析なども通じて、利用者の利便性を高めていく必要があると指摘。「Webガバナンスの概念に基づいてWebサイトを構築・運営することで、これまでにないパワーを発揮できる」という考えを示し、基調講演を締めくくった。