本格的な電子申請がスタートすることとなっている今年2003年度は、まさに「電子申請元年」と言える。今回は、現在稼動している電子申請(汎用電子申請システムと電子入札)を中心に、その動向を見ていくことにしよう。

■汎用受付システムの構成と機能

■図1 電子申請システムの基本構成

 各省庁では、電子署名等を利用した本格的なインターネット電子申請システムを稼動させている(表1)。その多くは、申請・届出等手続のオンライン化に関わる汎用受付等システムの基本的な仕様に基づく「汎用受付システム」と言われるものである。各種申請・届出等手続の一元的な窓口機能を持つシステムだ。


■表1 電子申請の稼動状況
種別 提供する行政機関・サービス名等
汎用受付
システム
総務省、経済産業省、国土交通省、文部科学省、法務省、厚生労働省、財務省、金融庁、警察庁、外務省、環境省、農林水産省、東京都、岡山県、埼玉県、三重県など。
電子入札・
開札システム
国土交通省、総務省、横須賀市、下関市、岐阜県、岡山県、東京都(15年度より)など。
今後提供されるもの ・電子申告・納税システム
・パスポート申請
・会社設立ポータル
・自動車保有関係手続ワンストップサービス
・各種証明書の交付請求

 「汎用受付システム」が有する機能や提供するサービス内容は、以下の表2の通りである。

■表2 「汎用受付システム」の機能とサービス内容
1.申請データの作成
 申請データは、行政機関が提供する申請書と添付書類からなる。
 申請者の意思が確認できるよう、電子署名にも対応している。
2.申請データの送信と受信
 申請者から送られた申請データを行政機関が受信し、記載内容等を検証する。
3.状況確認
 申請者側で、申請データの到達、審査の状況などを確認できるようになっている。
4.手数料納付
 オンラインバンキングやATM(現金自動預払機)からの納付が可能となるが、行政機関側のシステムが完成していないため、現在は機能していない。
5.結果取得
 審査の終了が申請者宛てに通知される。具体的な処分結果(許認可等の公文書)については、申請者がシステムにアクセスして取得する。

 2003年4月現在、「汎用受付システム」を使った電子申請は、12省庁で提供されており(表3)、国の主要な行政機関のほとんどが対応していると言える。受付可能な手続も、順次追加されていくことになっており、2003年度中に、原則として全ての手続についてオンライン電子申請が可能となる。ただし、これら「汎用受付システム」による電子申請には、手続きが煩雑であるなどの課題も浮かび上がっている。こうした課題については次回コラムで詳しく触れる予定である。

■表3 中央省庁の「汎用受付システム」を使った電子申請
総務省:電子申請・届出システム 経済産業省:電子申請システム(ITEM2000)
国土交通省:オンライン申請システム 文部科学省:オンライン申請
法務省:オンライン申請システム 厚生労働省:電子申請・届出システム
財務省:電子申請システム 金融庁:電子申請・届出システム
警察庁:電子申請・届出システム 外務省:受付窓口(申請・届出等)
環境省:電子申請・届出システム 農林水産省:電子申請窓口

■電子入札システムの稼働状況

 国や地方自治体が実施する公共の工事や物品の調達については、入札制度により契約することとなっているが、これを電子的に実施・支援するものが電子入札システムである。電子入札システムの導入により、談合の防止など透明・公正な競争の実現、入札業務の効率化・迅速化、入札参加者の負担軽減などが期待されている。

 一般市民へのサービスとして提供される申請・届出と比べると、電子入札の場合は、原則として紙申請の併用を行わないこととなっている。このため、公共入札に参加する企業においては、電子入札への対応が必須となってきている。

 国の機関においては、公共事業の電子入札システムとして、国土交通省が提供するもの、物品等の分野における電子入札システムとして総務省が提供するものなどが稼動しており、他の省庁においても、2003年度中に導入される予定である。本年4月より公社化した日本郵政公社でも電子入札システムが導入されている。

 地方自治体においても、全国に先駆けて導入を実施した神奈川県横須賀市、を初めとして、東京都(入札については平成15年度中に開始)岐阜県岡山県などで稼動している。

 電子入札は、利用者にとって半ば強制的に進められることもあり、汎用受付システムと比べて利用者向けのサポート体制が充実しているのも特徴である。電子入札に強い関心を寄せる建設関連企業を中心として、電子入札Q&A(日本土木工業協会)など、利用にあたっての情報共有も積極的に行われている。

 システム構築・運営費用の確保、電子化が遅れている企業への支援などの課題はあるものの、入札経費の削減、参加企業数の増加、落札価格の低下など、費用対効果を測定しやすい電子申請として、電子入札は今後の成果に期待したい分野である。

 なお、電子入札システムでも、汎用受付システムと同じように国や地方自治体でバラバラに構築されるという問題がないわけではない(「汎用受付システム」の問題点については次回コラムで触れる)。しかし、国の公共事業については国土交通省が中心となっているため、各省庁でバラバラになる心配は少ない。地方自治体では横須賀市などによる独自の方式も見られるが、国(国土交通省)が奨励する電子入札コアシステムの動向を見据えながら、柔軟に対応できるよう配慮しているようである。

 筆者としても、より良いものをより安価に調達するという入札制度の趣旨からすれば、各地方自治体が導入コストや効果を考え、地域産業の育成等も視野に入れながら、自分達にあった電子入札システムを構築するのは悪いことではないと考えている。

牟田氏写真 筆者紹介 牟田学(むた・まなぶ)

行政書士として登録後、電子申請・電子政府に興味を持ち、自らのウェブサイトManaboo's Roomを起点として関連情報を発信。研究会等に参加しながら、電子申請がもたらす様々な可能性を探求している。共著に『インターネット電子申請』がある。