一見すると、政府の電子申請の進ちょく状況については、予定通り順調に進められているように見える。だが、実際に稼動した電子申請システムについては、役所やベンダーの関係者からの情報で知る限り、利用者数も少なく認知度も低いのが現状であり、市民の支持を得ているとは言いがたい(残念なことに、こうした電子申請の利用状況に関する情報が公開されていない)。
また、市区町村レベルでは、電子申請に関する計画の策定や実施について、予算や人材の確保が困難なこともあり、かなり苦労しているのが実状である。
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政府では、電子申請のことを「行政手続等(申請・届出等手続)の電子化・オンライン化」と呼んでいる。しかしながら、単なる手続の電子化・オンライン化と考えてしまうと、電子申請は成功しない。電子申請においては、「電子化・オンライン化」が一つの重要な側面であり段階と言えるが、それがすべてではない。むしろ、そこに至るまでの方法や過程こそが重要なのである。
本コラムでは、電子申請に関する最新動向を踏まえつつ、そもそも電子申請とは何を意味するのか、何を目指して進められるべきなのかといった点を、連載の中で明らかにしていきたい。そして市民、行政、地域にやさしい「使える電子申請の実現」に、少しでも貢献することができればと考えている。
■単なる手続の電子化・オンライン化ではない
筆者が電子申請において重要と考える要素は、次の3点である。- 電子行政サービス─行政サービスの電子化・オンライン化
- 電子行政マネジメント─ITを活用した透明性の高い効率的な行政経営・管理
- 電子デモクラシー─オンライン/オフラインによる市民の行政参加
■電子申請の3要素 |
電子化、オンライン化によって、役所が提供するサービスの幅を広げ、その質を向上し、整理・統合化していくのが「電子行政サービス」である。そのために、役所内の組織や人が、サービスの提供を効率的に実施できる体制を整えておこうというのが「電子行政マネジメント」だ。そして、そのマネジメントが、透明性を持って効果的に機能しているかどうかをチェックし、より良いサービスの実現に利用者自身が積極的に関与していこうというのが、「電子デモクラシー」ということになる。
つまり、この三つの要素は、相互に関係し作用し合うものであり、どの要素が欠けても優れた電子申請は実現できないのだ。
これら3つの要素を踏まえた上で、電子申請が目指すべきゴールを明確にしておきたい。目的やゴールが不明確なまま電子申請プランを実施していくと、バラバラで整合性のない電子申請システムが乱立し、大幅な予算超過となる可能性が高い。このゴールは、市民が共有するべき電子申請におけるビジョンとも言うべきものであり、具体的な計画の策定や指標となる数値の決定は、このゴールを目指すためのものとされなければいけない。
電子申請が目指すべきゴールは、次の5つである。
■電子申請、5つのゴール | ||||||||||||
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・目に見えるゴールより目に見えないゴール ・「便利」「効率化」から何が生まれるかが重要 |
1、2、3は先に述べた3要素(「電子行政サービス」「電子行政マネジメント」「電子デモクラシー」)に対応するものであり、4は電子申請を生み出す活力の源となるものである。さらに、優れた電子申請のみに恵まれる果実が5ということになる。
では、この5つの要素それぞれについて解説していこう。
筆者紹介 牟田学(むた・まなぶ) 行政書士として登録後、電子申請・電子政府に興味を持ち、自らのウェブサイトManaboo's Roomを起点として関連情報を発信。研究会等に参加しながら、電子申請がもたらす様々な可能性を探求している。共著に『インターネット電子申請』がある。 |