「e-Japan戦略」などで見られるように、日本が国を挙げて進める電子政府は、今年2003年度に関連する基盤の構築を完了し、インターネットを利用した本格的な電子行政サービスを展開することになっている。その中でも、電子申請に対する市民の期待は大きく、電子行政サービスの中核に位置すると言えるだろう。

 一見すると、政府の電子申請の進ちょく状況については、予定通り順調に進められているように見える。だが、実際に稼動した電子申請システムについては、役所やベンダーの関係者からの情報で知る限り、利用者数も少なく認知度も低いのが現状であり、市民の支持を得ているとは言いがたい(残念なことに、こうした電子申請の利用状況に関する情報が公開されていない)。

 また、市区町村レベルでは、電子申請に関する計画の策定や実施について、予算や人材の確保が困難なこともあり、かなり苦労しているのが実状である。


【参考データ】
地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果
(2002年10月、総務省)
電子自治体構築におけるアウトソーシング活用に関する実態調査結果
(電子商取引推進協議会、2002年11月)

 政府では、電子申請のことを「行政手続等(申請・届出等手続)の電子化・オンライン化」と呼んでいる。しかしながら、単なる手続の電子化・オンライン化と考えてしまうと、電子申請は成功しない。電子申請においては、「電子化・オンライン化」が一つの重要な側面であり段階と言えるが、それがすべてではない。むしろ、そこに至るまでの方法や過程こそが重要なのである。

 本コラムでは、電子申請に関する最新動向を踏まえつつ、そもそも電子申請とは何を意味するのか、何を目指して進められるべきなのかといった点を、連載の中で明らかにしていきたい。そして市民、行政、地域にやさしい「使える電子申請の実現」に、少しでも貢献することができればと考えている。

■単なる手続の電子化・オンライン化ではない

 筆者が電子申請において重要と考える要素は、次の3点である。
  • 電子行政サービス─行政サービスの電子化・オンライン化
  • 電子行政マネジメント─ITを活用した透明性の高い効率的な行政経営・管理
  • 電子デモクラシー─オンライン/オフラインによる市民の行政参加
■電子申請の3要素
電子申請の3要素

 電子化、オンライン化によって、役所が提供するサービスの幅を広げ、その質を向上し、整理・統合化していくのが「電子行政サービス」である。そのために、役所内の組織や人が、サービスの提供を効率的に実施できる体制を整えておこうというのが「電子行政マネジメント」だ。そして、そのマネジメントが、透明性を持って効果的に機能しているかどうかをチェックし、より良いサービスの実現に利用者自身が積極的に関与していこうというのが、「電子デモクラシー」ということになる。

 つまり、この三つの要素は、相互に関係し作用し合うものであり、どの要素が欠けても優れた電子申請は実現できないのだ。

 これら3つの要素を踏まえた上で、電子申請が目指すべきゴールを明確にしておきたい。目的やゴールが不明確なまま電子申請プランを実施していくと、バラバラで整合性のない電子申請システムが乱立し、大幅な予算超過となる可能性が高い。このゴールは、市民が共有するべき電子申請におけるビジョンとも言うべきものであり、具体的な計画の策定や指標となる数値の決定は、このゴールを目指すためのものとされなければいけない。

電子申請が目指すべきゴールは、次の5つである。

■電子申請、5つのゴール
目指すべきゴール キーワード
1.行政サービスの向上 ポータル、ノンストップ(週7日24時間)、ワンストップ、バリューパッケージ(官民連携)、カスタマイズ、紙申請との連携
2.行政事務の効率化 ナレッジマネジメント、BPR(業務フローの改善)、手続の簡素化・合理化
3.民主主義の促進 パブコメ、議事公開、電子投票、市民会議室、E-デモクラシー
4.新しい文化の構築 ビジョンの共有、組織改革、人材の育成、部局横断的、縦割りから水平構造へ、情報共有、権限委譲(意志決定の分散)、経済的な合理性、自発的な参加、情熱と希望、挑戦と変革、多様性の尊重、失敗を認め生かす、協働と連携、改善の欲求、アイデアの創造、サービスの工夫
5.住民と行政の新たな
 関係の実現
透明性、説明責任、コミュニケーション機会の増大、政治への信頼強化、相互の尊敬・信頼・期待、意志決定への市民参加
    ・目に見えるゴールより目に見えないゴール
    ・「便利」「効率化」から何が生まれるかが重要

 1、2、3は先に述べた3要素(「電子行政サービス」「電子行政マネジメント」「電子デモクラシー」)に対応するものであり、4は電子申請を生み出す活力の源となるものである。さらに、優れた電子申請のみに恵まれる果実が5ということになる。

 では、この5つの要素それぞれについて解説していこう。


牟田氏写真 筆者紹介 牟田学(むた・まなぶ)

行政書士として登録後、電子申請・電子政府に興味を持ち、自らのウェブサイトManaboo's Roomを起点として関連情報を発信。研究会等に参加しながら、電子申請がもたらす様々な可能性を探求している。共著に『インターネット電子申請』がある。