今、私たち(日経BPコンサルティング)では、全国約500の地方自治体サイトについて、アクセシビリティやユーザビリティを横並びでチェックしている。横断的に見ると、“自分本位な”リンク名をつけている自治体サイトが多いことに驚かされる。リンク名に該当ページのニックネームだけを示し、内容については何も説明のないサイトが、少なからず見受けられるのである。

 「eかごしま」「ふくふくマップ」「ひむか神話街道」「みちのく夢ネット」……。すべて地方自治体のサイトに実在するリンク名だ。これらのリンク名から、リンク先のコンテンツを類推することができるだろうか?

■意味の分からないリンク名はサイト訪問の視界から消える

 リンク名は、ビジター(サイト訪問者)がリンク先のページ内容を類推できるようにしたい。できれば明確に分かるように補足説明も加えたい。リンク先のページで「どんな情報を得られるのか」「どんなサービスを享受できるのか」といったことをリンク名から予想できなければ、ビジターはそのリンク名の場所をクリックしないからだ。

 以前、ある企業サイトのユーザビリティ・テストを行ったのだが、製品名のみが書かれたリンクの存在に、テストモニターの6人中5人までが気付かなかったケースがあった。極言すれば、ビジターは意味の分からない文字列のリンク名が“見えない”のである。

 ビジターは何か目的を持ってサイトにやってくる。自分が探したい情報、サービスがどこにあるのかを見つける第一の手がかりはリンク名だ。ビジターは、リンク先のページにどんな情報があるかをリンク名から類推する。類推できなければ、せっかくのコンテンツも存在しないのと同じことになってしまう。せっかくの有用なコンテンツ、便利な機能も見逃されてしまうのだ。

■「パブリックコメント」と言われても分からない

 地方自治体のWebサイトで、よく見かける名称なのに、その意味がよく分からないリンク名の一つに「パブリックコメント」がある。ある課題について広く意見を求めるこの制度を、周知の言葉として、補足説明なしでリンク名に使っているサイトが多い。しかし「パブリックコメント」という名称を見て、自分の意見を投稿しよう、と思える人は、制度を知っているほんのひと握りの人だけだろう。

 多くの人々は「パブリックコメント」から、プレスリリースや公共団体が公式に発表したコメントを思い起こしがちだ。「パブリックコメント」の代わりに「公聴」というリンク名を使っている自治体もあるが、いっそう分かりにくい。「公聴」というリンク名を見て自分の意見を述べようと思う人は多くないだろう。さらに付け加えれば、「パブリックコメント」を募集しているのか、それとも「パブリックコメント」に集まった意見を公開しているのかも、ユーザーに明示すべきだろう。

 中には分かりやすい表現を工夫している自治体もある。「ご意見募集」という大きなカテゴリーの中に「県民意見募集手続き(パブリックコメント)」とした大分県のサイト、「ご意見募集中」(千葉県)、「県民のこえホットライン」(長野県)などがそうだ。こうした表記の方が、“意見を募集する”という意図が広く伝わることは間違いないだろう。

■ニックネーム、固有名詞には補足説明を

 もうひとつ目立つのが、冒頭の例に挙げたようなニックネームや固有名詞をそのままリンク名としてしまう例である。

 例えば鹿児島県のトップページには「eかごしま」というリンクボタンがある。リンク先は同県広報課が運営し、県が発する情報のポータル的なページなのだが、「eかごしま」では、いったいどんなページなのか、トップページ中探し回ってみてもさっぱり分からなかった。「クリックしてくれれば内容は分かる」ということなのだろうが、内容の予想がつかなければ、クリックしてくれる確率は低い。「県庁発 県政・観光情報ポータル」とか、「県庁に関する情報はこちらで」といったような補足説明があれば、ビジターは迷わないで済む。

 「ふくふくマップ」は福井県のトップページにある、バリアフリー施設などの案内情報へのリンクだ。地域別、用途別にバリアフリー施設を探せる。利用したい人は多いはずだ。しかしリンク名からは、その内容がまったく分からない。「福井県内バリアフリー施設案内」とか「バリアフリー施設を探そう」のような補足を入れることによって、クリックする人はぐっと増えるのではないだろうか。

 ちなみに「ひむか神話街道」は宮崎県サイトにある観光地案内サイト、「みちのく夢ネット」は、岩手県のトップページにある北東北3県のポータルサイトだった。いずれもリンク名だけでは内容を類推することは難しい。リンク名は、リンク先の内容が予想できるような表現を心がけたい。

古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。