日本一だった静岡県が三重県に首位の座を明け渡した。

 県庁所在地の市域面積の話ではない。都道府県サイトのトップページの長さである。かつて静岡県のトップページは、ディスプレーの解像度を800ピクセル×600ピクセルとしたとき、全部を見渡すためには5画面分をスクロールしなければならなかった。この4月に入ってリニューアルされ、3スクロールに短縮されたため、4スクロールを超える三重県がトップとなった。三重県のほかにも、新潟県、福井県、和歌山県、岡山県、長崎県などのページがその長さを競っていた。

 ウェブサイトにおいてトップページはナビゲーションの起点であり、アクセスしてくるビジター(訪問者)にとっては、サイトの運営主体の“顔”に等しい。つまり、自治体サイトのトップページは、その自治体の“顔”なのである。だからまず、ビジターに向けて「ここからお入りください」と招き入れる明確なサインが必要だ。トップページがあまり長過ぎると、ビジターが求める情報の入り口はずっと下の方に隠れてしまう可能性がある。これだと、ビジターは目的の情報を探す前にくたびれ果てて帰ってしまうかもしれない。

 ほとんどのビジターは、目的を持って自治体や企業のホームページにやって来る。「住民として必要な情報が欲しい」「入札情報や仕事を探したい」「観光目的で名所を見つけたい」といった目的だ。

 目的の情報を得るためにビジターは、どこからどう入って行けばいいのかリンクを探し、情報ページへ突き進む。トップページにビジターそれぞれの目的に合った入り口が明確に示されていれば、そのウェブサイトは極めて使いやすい。例えば「市民向けの入り口はこちら」「観光客向けはこちら」「業者向けの入り口はこちら」といった具合だ。ストレスなく目的の情報へ向かうリンクを探せることが、トップページに必要不可欠な条件といえよう。

 あまり探し回らなくてもリンクを探せると言う意味で、トップページの長さは1.5~2スクリーン以内が適当だと思う。つまり全体を1クリック程度で見渡せるサイズである。

■最重要視したいターゲットビジター向けリンク

 ビジターが情報を探しやすいトップページの条件は、長さだけではない。探しやすいサイズと、明確に示された入り口のほかに、リンク先の内容を推測できるような見出しやリンク名が用意されていなければならない。

 トップページが1画面程度に収まっていても、リンクの不備が目立つ自治体のページも少なくない。ビジターを目的の情報へ誘導できなくてはトップページの意味は薄れてしまう。

 部局単位のリンク分類しかない住民不在のホームページや、トピックスや新着情報がズラズラ並ぶだけで、一体どこから情報を探していいのか分からないホームページもある。ページサイズをコンパクトにまとめようとしたのか、コンテンツへ向かうリンクをプルダウンメニューの中に隠してしまい、マウスを操作しない限り中味がまるで見えない自治体サイトもあった。フレームを使ってコンパクトにしようとしたページもあったが、フレームの使用はユーザビリティ上、避けた方が望ましい。

 都道府県の各ウェブサイトをざっと見たところ、ビジター向けリンクをうまくまとめ、比較的コンパクトなトップページを持っていたのは、香川県と東京都だった。奈良県や茨城県なども、まあまあのまとまりだ。

香川県のホームページへ

香川県のホームページ
香川県のトップページのサイズは、ブラウザーを開くとほぼ1画面に収まる。左に住民やビジネス目的のビジター向けリンク、右にニュース的な情報をまとめている。中央はそのときどきのトピックス。住民向けの見出しがちょっと弱く、リンク先の内容についての補足説明がない、下の階層ではナビゲーションがすぐに消えてしまうなどの欠点はあるが、トップページのサイズと情報の盛り込み方としてはかなりいいセンだと思う。

東京都のホームページへ 東京都のホームページ
東京都のトップページは、サイズ、リンクのまとまり、リンク見出しの補足説明など、かなりよく考えられている。一部にプルダウンメニューから選ぶコンテンツリンクがある点や、トップページに戻れないページを作っている部局があるなどの問題はあるが、ほかの自治体が見習えるポイントがいくつも見出せる。第二階層までのページはデザインも統一されていて、自治体のトップページとしてはかなり使いやすい部類だ。


 企業サイトと同様に、自治体のウェブサイトで最も重要なのは、ターゲットとするビジターに向けた明確なメッセージを発するリンク、およびそれらのリンクをくくるカテゴリー見出しだ。分かりやすい表現の見出しで、住民、観光客、民間業者などの各ターゲットに向けたリンクを束ねることで、そのサイトは非常に使いやすいものになるだろう。

■ホワイトスペースはほどほどに

 トップページが長くなってしまう理由の一つに、無駄なホワイトスペースの利用がある。雑誌や広告など紙媒体のデザインでは、ホワイトスペースを有効に使って、写真を際立たせたり、記事を読みやすくする。しかしウェブサイトのデザインには、紙のデザインをそのまま持ち込むことは避けた方がいい。

 トップページではないが、しばしば自治体や官公庁サイトで目にするのが、ビジネス文書の書き方をそのままウェブに再現しているケースだ。ページ上部右に連絡先などの住所を長々と書いて、その下から情報を書き並べたページを目にした方も少なくないだろう。これでは狭いブラウザの画面上で情報を探しにくい。

 情報が主役のウェブサイトには、ウェブサイトに合ったデザインがある。情報ページとは言え余白は必要だが、ゆったりとしたページ作りよりも、効率よくコンテンツを読めるデザインが重要だ。

 長さはもちろん、ビジターのニーズを汲み取って、それに合ったデザインと構成にすること。自治体や企業サイトのトップページに求められるのはこのポイントである。


古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。