Macromedia flashをはじめ、アニメーションや動画を使ったサイトが大流行している。

 企業サイトを中心に、URLを打ち込んだ時、あるいは検索エンジンから飛んだ時、数秒間「Now Loading」が表示されたあと、実に美しいアニメーションがきらきらと展開されるサイトを目にする機会が増えた。また、トップページなどで、目立つ場所にバナーのような画像を用意し、その画像をアニメーションや動画で表現しているサイトも多い。

■忘れ去られたサイト来訪の目的

 日頃、企業サイトをチェックする機会が多いため、そう感じているだけなのだろうと思っていた。見やすさ、使いやすさが第一に問われる官公庁・自治体サイトにはそんなサイトはないだろうと思っていたのだが、実際はそうではなかった。あらためて都道府県庁のトップページ見直してみると、かなりのサイトが動画を使っていたのである。

■トップページにアクセスすると画像や文字が動くサイト
米国全51州中8州) 日本全48都道府県中30道府県)
ArkansasColoradoKentucky
Nebraska
NevadaNew Hampshire
New YorkOklahoma
北海道青森県岩手県秋田県
山形県茨城県埼玉県千葉県
新潟県富山県福井県山梨県
岐阜県静岡県愛知県三重県
京都府兵庫県奈良県和歌山県
鳥取県山口県徳島県香川県
高知県長崎県熊本県大分県
宮崎県鹿児島県
※2003年3月10日調べ(Ohio、New Mexicoはアクセス不能のため未調査)
※北海道とNew Yorkは、ごく短いオープニング動画が自動終了して以降は
 動く部分がなくなる。
※マウスオーバーで動く部分は対象外として調査。

 例えば、京都府庁のサイトでは、トップページの右側ほぼ半分を大きな画像が画面下から上に流れていた。どうしても視線はそちらの流れに吸いつけられてしまう。観光情報が目的のビジターにはいいかも知れないが、府民にとって使いやすいといえるだろうか。

 このほかにもメーンタイトル脇の写真や画像が動く「千葉県」「愛知県」「山口県」「香川県」「熊本県」などをはじめ、コンテンツのタイトル見出しを点滅させている「茨城県」、ナビゲーションのための画像の動きが大きい「岐阜県」、「福井県」などがあった。アイコンやバナー、リンクボタンなどが点滅したり、テキストが流れるなどの要素を持っていた都道府県庁サイトのトップページは、全体の過半数を超えている。

 動画(あるいは動的ホームページ)は読み込みに時間がかかり、表示まで数秒を要することも多い。だから使用は控えるべき、という声は以前からあった。ブロードバンド化の進展に伴い、読み込み時間の制約を受ける利用者は減ったが、だとしても、トップページに動くな要素を多用することがいいとは決して思わない。

 動画は視線を引きつける。だからサイト訪問者は動く画像に目が向き、思わずそのリンクをクリックしてしまいそうになる。サイト運営者にとってはこれが狙いである。しかしこれはサイトのビジターにとってもありがたいことなのだろうか?

 ビジターは何のためにサイトを訪れるか。ほとんどのビジターが、何か明確な目的を持ってサイトを訪れる。特に、自治体サイトの場合はその傾向が強いといえるだろう。自分が使いたい公共施設の場所や連絡先を知りたい、住民票を取るための受け付け窓口のサービス時間を調べたい、知事の記者会見のリリースを見たい……。ビジターは様々な目的を持っている。そしてビジターは、自分の目的に合ったリンクを素早く探し出し、目的の情報を簡単に引き出したいと思っている。

 しかしトップページのようなナビゲーションページで動画がきらめくと、どうしてもそちらに視線が引きつけられてしまう。自分の目的とするリンクを探している時に邪魔になってしまうのだ。我々は、このようなサイトに「視線をハイジャックするサイト」という呼称を差し上げている。

■動画を使った方がいいページもある

 目的を持って来訪したビジターにとって、目的ページへのリンクを探しにくくする要素は“邪魔者”でしかない。トップページをはじめ、ナビゲーションをつかさどるページには、動画の使用を避けた方がいい。

 「ナビゲーションなくして、ディスティネーションなし」と断言したのは、米国でイントラネットという概念を初めて提唱したとされるスティーブ・テリーン博士だ。Webサイトは雑誌などとは異なり、パラパラと中身を探ることができない。ナビゲーションがなくては使いようがなく、どんなに優れた情報ページを作っても、ビジターはたどり着けないのである。

 ただし、動画を使うこと自体が悪いわけではない。情報をより分かりやすく伝えるためには動画を使った方がいいこともある。

松下電工「クリックマッサージ」
動画を効果的に使ったコンテンツの例(松下電工「クリックマッサージ」)

 例えばコニカのサイトにある「楽しい写真教室基礎編 - シャッターの切り方」では、カメラのシャッターの切り方を動画で説明し、より現実に近い動きを確認できるようにしている。また松下電工のサイトにある「クリックマッサージ」というコンテンツでも動画をうまく利用して、ストレッチ体操の動きを分かりやすく説明している。

 使用目的と表現方法が適切なら、動画表現はビジターにとって有益なものとなるのである。


古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。