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世田谷区の「らくらくウェブ散策」提供ページ
 岐阜県、東京・世田谷区など先進的な自治体のホームページでは、日本語文字読み上げ・文字拡大・画面配色変換の機能を持つシステム「らくらくウェブ散策」(日本IBM製)を提供するなど、“バリアフリー”なサイトに転換する動きが始まっている。

 視覚の不自由な人や、モニター画面上の細かい字を読むのがつらい人など、どんな利用者にも使いやすくするために「アクセシビリティ」を向上させようという試みは大いに評価できる。

 ただし、音声ブラウザーに対応したページを作るためには、視覚的に使いやすいページ作りとは少し違った気遣いが必要となることは忘れられやすい。ソフトさえ導入すれば済むというわけにはいかないので、注意が必要だ。

■今日の日付は「にぶんのいち」

 例えば日付けを書く場合、「1月2日」「9月25日」と書けば、問題なく「いちがつふつか」「くがつにじゅうごにち」と読み上げるが、「1/2」「9/25」では「にぶんのいち」「にじゅうごぶんのきゅう」としか読まれない。「第2・4月曜」も視覚的には何の問題もないが、「だいにてんよんげつよう」と読まれては、意味を理解しにくいだろう。電話番号を示す時も、「電話」と書けば「でんわ」と読んでもらえても、ついいつものクセで「TEL」と書いてしまっては「てぃー いー える」としか読まれない。

 せっかくのバリアフリーの仕組みを生かすためには、実際の利用者が使った時に使いやすいかどうか、役に立つかどうかをチェックする必要がある。意味の通じない読み上げテキストは、利用者の手が届かない高さに取り付けた階段や廊下の手すりと同じだ。

■「属性」設定の落とし穴

 同じように音声ブラウザーを生かすためには、例えばホームページ上のすべての画像に「属性」(=「おるとぞくせい」と読みます)を設定する必要がある。これは、画像を表示できないブラウザー、音声ブラウザーなどの利用者のために画像の代替テキストを用意するための記述だ。Internet Explorerでは、ホームページ上の画像などにマウスのポインタを乗せた(マウスオーバー)した時に、マンガの吹き出しのようにALT属性に記述されたテキストが表示される。この部分を音声ブラウザーで読み上げれば、目の不自由な利用者でも画像の存在を知ることができ、その意味を汲み取れるようになる。

 例えば画像にリンクボタンを設定するケースはよく見受けられるが、このようなボタンを生かす上で、コーディングの際に「属性」を設定することは欠かせない。

 しかし、見て美しいビジュアルなページが多い昨今のホームページでは、画像が多すぎて、「属性」だらけになってしまうことがままある。そんな時には、あまり意味のないイメージのような装飾的な画像は読み飛ばすように、「属性」に「" "」(スペース)を入れておく(「ALT=" "」とする)。音声ブラウザーは「" "」を読み飛ばすから、必要な情報だけを読み上げるように「属性」設定すればいい。

 こういった提言をコンサルティングの依頼を受けたある企業サイトに対して行ったところ、数カ月後、この企業はサイトを改良し、みごとにすべての画像に「属性」を設定してくれていた。

 「さすがですね」──その企業のWebマスターと話しながら第3階層のページを見ていた時、私たちのスタッフは笑い出し、Webマスター氏の顔が凍りついた。音声ブラウザーを通してそのページを読ませたところ「すぺいす」がめったやたらに連発されたのである。なんとそのページにあるすべての画像の「属性」に「"Space"」と入っていたのだ。

画像のオルト属性にSpaceと入れてしまった例
あまり意味のない画像イメージにはALT属性にスペースを入れて「ALT=" "」とするが、これを「alt="Space"」と誤解してしまい、音声ブラウザーが次々と「すぺいす」と読み上げてしまったという笑い話も……。(この画像は参考例です。実際の「本格的に動き始めた電子自治体」では、このようなことはありません)。

 バリアフリーの試みもやはり、その原理を十分理解した上で、利用者の身になって実施しなければ、毒にも薬にもならないどころか、かえって障害を増やすことにすらなってしまうのである。
※お詫びと訂正(2月21日)---本コラム文中の「タグ」を「属性」に、「これは、ホームページ上の画像などにマウスのポインタを乗せた(マウスオーバー)した時に、マンガの吹き出しのように表示されるようにするためのタグだ」としていた部分を「これは、画像を表示できないブラウザー、音声ブラウザーなどの利用者のために画像の代替テキストを用意するための記述だ。Internet Explorerでは、ホームページ上の画像などにマウスのポインタを乗せた(マウスオーバー)した時に、ALT属性に記述されたテキストがマンガの吹き出しのように表示される」と訂正しました(現在は訂正済みのテキストを公開しています)。謹んでお詫び申し上げます。(編集部)

古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。