●次世代の電子自治体に関する提案の最終回が本稿である。電子自治体の本格的な稼働を前に、既に自治体間の競争が始まっている。望む望まないに関わらず、自治体の住民は電子自治体を比較し、近隣であれば転居も厭わない状況が出現し始めている。その先にはさらなる越境もあり得るだろう。競争を意識する時代の到来は、思った以上に早そうだ。


 「e-Gov.ラボ」(イーガバメント・ドット・ラボ)では、これまでに次世代の電子自治体のあり方を提言してきた。今年6月に連載を開始した今回の活動では、3カ月間にわたって計12本の論文の発表を目標とした。ほぼ毎週の活動にお付き合いいただいた読者の皆様には、新たなコラボレーションの「場」をいただけたことをあらためて感謝申し上げる次第である。

 既に、いくつかの熱心な自治体からは、メールにて質問を受け、実際に多くの方々との議論の場を講演・セミナーという形で実現させていただいた。いくつかの電子自治体関連団体(例えば北海道電子自治体実証プロジェクト協議会など)との間には、意見交換から新たな企画が生まれつつあり、競争優位に向けたコミュニティ特性のあり方を検討する“仕組み”が設けられつつある。

 さて、連載の最終回では、ケーススタディとして既に提示した4つの電子自治体の「型(パターン)」の参考事例となるようなケースをいくつか抽出し、そのポイントや課題を提示する。これはほんの一例であり、より直接的な事例については形が整い次第、公表していく予定だ。筆者の日々の活動を記述している「e戦略の視点2」にて確認していただけると幸いである。


■4つの電子自治体の型(パターン)
(1)ビジネスサポート型

 コミュニティ全体がビジネスをサポートするという概念が、やがて登場するであろう。企業立地のための施策はビジネスサポートの一つの姿であり、観光のための町おこしもこうした部類に入れることができる。

 ただし、いずれの場合でも、外部からの委託を受け入れることや、自らの獲得すべきスキルを意識し、プロセスをノウハウとして蓄積することが重要だ。

・NPO法人(特定非営利活動法人)の地域サイト構築支援
 東京都三鷹市で立ち上がったNPO法人「地域ポータルサイト推進協会」は、システム構築を手がけるIT関連企業3社の社長を役員にして、2002年7月に発足した。ネットに関する知識や高度なノウハウに乏しい市区町村、商工会などの代わりに地域ポータルを構築し、その運用まで代行することを目的としている。一般の(営利)企業の場合、情報掲載は1カ月間で1500円だが、自治体や非営利団体は無料となっている。構築料金は標準的なもので50万円という。

 こうしたサイトはNPOによるサポートも可能だが、先進自治体が他自治体へのサポートとして展開することもできる。また、有料のコンサルティングサービスに進出するか、あるいはDB(データベース)の囲い込みによるコスト削減を目指すかは、事業戦略の組み方、考え方次第である。

(2)観光イベント型

 観光イベント型の肝は、イベントの核となる「ナレッジワーカー」「シンボリックアナリスト」の一本釣りにある。そのためには、彼らが求める“シナジー”を理解し、顧客側の「量より質」を追求することが望まれる。ちなみに“シナジー”とは、組織や人、プロジェクト、モノなど何でもよいが、それらが複数集まって“結合”した状態になった時に、初めて現れる現象のことである。部分からでは予測できない性質や効果を指す。

 また、そうした良質な顧客のビジネス要求に応えるためには、自らが保有するスタッフのリストを絶えず最新のものに置き換える作業が求められる。

・地域通貨
 地域通貨やポイントカードを利用し、リピート客を確保することは誰もが検討するが、同じ地域に繰り返し来てもらうための仕組みに踏み込んだケースは少ない。逆説的な言い方をすれば、いつも来てもらうためのインセンティブが求められる。しかし、そうした奇特な顧客は、地元出身の人が大部分であり、地域情報に飢えているということだ。

 一方、そこまでして地域情報を提供できない、あるいは提供する必然性が見あたらない(地域としての求心力が少ない、低い)場合には、広域連携による「グループ化」(顧客の循環市場の確立)を検討することが望まれる。

 運用に際し、ハイシーズン(オンシーズン、繁忙期)でも優遇されるようなポイントが付くのか、地元優先の施設を開放するのか、あるいはオフシーズン(閑散期)の市場開拓を目指すのかなどによって、電子自治体のあり方は大きく異なる。

(3)癒し型

 既存リゾートはリゾートとしての癒し機能を高めることに尽きる--前回、紹介した「癒し型」の電子自治体では、このように説明した。こうした「癒し型」事例の“芽”としては、「リゾート同士の合併」「医療システムの高度化」「アクセスのための利便性向上」などが挙げられよう。

・草津と軽井沢のリゾート合併
 広域連携の新しい考えとして、古くからの温泉町である群馬県草津町と、避暑地である長野県軽井沢町の広域連携の動きが見逃せない。草津側の提案であり、具体的なアプローチにはまだ多くのハードルが存在するが、県境を超えた合併はまさに電子自治体での議論を超えたリアルでの対応である。

 こうした提案は、メディアでもここ数年取り上げられている草軽電気鉄道の復元などが根底にある。既に高崎経済大学などを中心にした研究会において検討が重ねられており、長野新幹線の開通によって活気づく軽井沢との連携が、草津の活性化にもつながるという計算が成り立っている。

・JR浜松町駅の「Suica」(すいか)共通利用化
 東京・羽田空港へのアクセスの“玄関口”であるJR浜松町駅では、JR東日本が傘下におさめた東京モノレールと同社のICカード「Suicaシステム」を共通化するとともに、7月から京浜東北線の快速を停車させている。

 さらに年末には21億円を投じ、駅舎改良工事(バリアフリー化)に乗り出す。その背景には、京浜急行電鉄が羽田直行便を運行し、10月から大幅増便するなど、両者の競争が激化していることが挙げられる。

 この事例では、交通アクセスの重要性を掲げたい。田舎だから交通の便が悪いというのは、顧客を獲得できない理由にならない。ターゲットが都心である場合、業務終了後に現地へのアクセスがあるのか、想定する競争相手に対してトータルコスト(交通費、時間)で優位性を獲得できるのか、それともいったんブームとなった場合に、顧客制限を課すのかなど、検討すべき材料は多い。

(4)人材育成型

 「人材育成型」でもっともニーズが高いのは、災害時のサポートである。そのためには、自らの地域が災害に遭遇した場合のマネジメントシステムを高度化し、外部への供給が可能な「循環型社会」をいかにつくり出すか。これに腐心することが求められよう。

・留学生の積極登用
 留学生か元留学生、あるいは日本語が堪能なアジア諸国の人材を囲い込み、日本向けのサポートサービスを行う企業のケースは多い。その多くは「コールセンター」と呼ばれる業務を遂行する。例えば、米国の大手電機メーカーGEは、中国の大連に日本語堪能な中国人を集め、日本からの電話の問い合わせに対応するサービスを開始した。

 こうしたケースに対抗するためには、留学生や外国人が多く集まる国内地域で、同様のサービスを検討することが必要になる。ただし、海外在住邦人や移民先として集積が進む中南米諸国が、潜在的な競争相手としてやがて浮上してくるだろう。そこで、国内で同様のサービスを展開するメリット、例えば「問題発生時にリアルタイムに駆けつけられる」「キメの細かいサービス、信頼性」「トータルとしての文化交流・人材交流」などを掲げ、説明しやすい環境を作ることが求められよう。

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。