●前回までに、「マーケティング機能」「行政サービス機能」「付加価値機能」「潜在力」による差別化、競争優位のための基本的考え方を伝えてきた。
●では、具体的にどういう「電子自治体」を構築できるのか。これが、今回と次回の枠組みとなる。今回は「ビジネスサポート型」と「観光イベント型」の2つを取り上げる。

■ビジネスサポート型
Q18
「ビジネスサポート型」とはどのような電子自治体か?



A18
調査部門や研究部門を持たない中小企業オーナーや個人に対して、電子自治体に登録したユーザーの“資源”を使って、「マッチメーキング」や「リサーチ」、「コンサルティング」といったサポート機能を提供できる“場”

 「ビジネスサポート型」は、その名の通り、ビジネスのサポートを得意とする電子自治体である。その電子自治体自身がビジネスサポートに長けているだけでなく、ビジネスサポートに関する人材や企業などが集まっているコミュニティをイメージして欲しい。

 近くに居るか居ないかは問題ではない。ただし、必要な時にすぐに専門スタッフを揃えられる、何でもニーズに応じられるという姿勢が必要だ。いうなれば24時間のコンビニであり、バイク便であり、コミュニティ全体が“キンコーズ化”(各種コピーサービスやパソコンの提供などを行う24時間営業のビジネスコンビニ)することである。

 このとき、当該電子自治体の専門スタッフとして、しかるべきプロを招へいし、適切なアドバイスを得られる仕組みを作ることが大切である。こうしたビジネスをサポートする場合に留意すべき点は、「どこまでをビジネスと考えるか」「誰のビジネスなのか」「誰がサポートするか」をはっきりさせることだ。

 電子自治体の主たる運営責任者は地方自治体であり、商売やビジネスに対する感性はお世辞にも鋭いとはいえない。本連載の第2回でいきなり「マーケティング機能」の重要性に触れたのも、そうしたことを念頭に入れ、優先順位を意識したからだ。未来の電子自治体は、料理でいうところのお皿であり、どういう食材を盛り込み、誰に食べてもらうかのグランドデザインをしっかりさせるべきだ。

図

「ビジネスサポート型」の電子自治体

・利用ユーザー像

 この「ビジネスサポート型」の電子自治体では、コミュニティのメンバー個々のナレッジ(知識)を再加工し、新たな市場での付加価値として活用できる「情報加工機能」の提供を目指す。

 例えば、調査部門や研究部門を持たない中小企業オーナーや個人が利用対象となる。その中には漠然と自らの有する情報を加工し、再利用可能な形で新たに市場に拠出することが求められている。ここに一つの市場が出来上がる。

 あるいは、自らのアイデアはビジネスモデルとして特許を得るレベルにはなさそうだが、どこかでアイデアが開花できないかと考えるユーザーである。

 今後、ビジネスパーソンの兼業規定が取り払われ、“二足の草鞋”(二毛作)が可能な時代の到来が予想される。本業で得られた経営情報を利用することは引き続き禁止されるが、異なる業種、セミプロ並みのもう一つのスキルを、第三者に提供したいというニーズが増えてくるはずだ。そのためには、夢の実現の手伝いをするというビジネスモデルを構築することが望まれよう。

・マッチメーキング機能

 こうしたユーザーに対して提供可能なサービスは、「登録」を促し、「相手を見つけ、組み合わせる」機能である。いわゆる適切なマッチメーキング機能である。そのためには、わざわざ登録のために出向いてもらうのではなく、日常的なビジネシーンの中で知らないうちに「顧客」として利用している状況を作り出すことである。こうした状況もBB(ブロードバンド)時代では遠隔操作で実現できるため、「顧客の近くにいるべきだ」という制約条件の“思いこみ”(錯覚)を排除することが大事となる。

 登録した顧客の真の目的や保有するスキルを選別し、スキルのレベルごとに分類できることが望まれよう。このとき、時代背景や時間経過によってスキルが陳腐化する、または“進化”することがある。このため、定期的に相手のスキルを推定し、あるいは直接調べることによって、顧客情報を更新する必要がある。


・リサーチ機能

 ビジネスサポート型では、こうしたマッチメーキングのために必要とされるスキル情報のリサーチを行う必要がある。

 例えば、スキルの鮮度を見極めてスキルデータベースを構築したり、コミュニティを訪れるユーザーのための関連スクールを運営することで、ローコストで確実にニーズを把握するなどが考えられる。またスクール運営では、登録した人材のスキルを高めることが第三者に対する人材の供給につながり、コミュニティの持続的な発展を望めるというメリットもある。

・コンサルティング機能

 集積した人材を第三者に派遣し、第三者が望む問題解決のためのスキルを提供することを「コンサルティング」と定義したい。コンサルティングの範囲は多岐にわたり、難易度も様々であるため、マネジメント自体は難しい。ただし、アンケート調査の代行やWebサイト作り、あるいはそのための被験者集めなどに協力することなど、ある程度の“ルーチン化”は可能である。

・インキュベーション(インターンシップ)機能

 個人がスキルを登録したいという欲求は、いつか独立したいというニーズによるものか、あるいは不安定な時代のリスクヘッジの手段の一つとして検討している場合が多い。こうした潜在ニーズを考慮すると、インキュベーションのための相談業務が求められていることが理解できる。具体的には、独立するために不足するスキルの獲得をサポートすることや、不足するスキルを補完するパートナーを探し出すことである。

・留意点~サポーターの獲得が鍵

 「ビジネスサポート型」というと、すぐに地元の大学の学生を供給できる、優秀な人材を安価で提供可能と考えがちだが、それは“虫がよすぎる”ビジネスモデルだ。競争が激化してくると、人材育成のためのコストは高まり、結局は優秀な人材がいないという理由で、コミュニティはリアルな場合と同様に廃れることになる。

 大事なことは、自らのスキルの一部を提供したいと願うユーザーを多く獲得し、そのスキルを再加工することで、第三者のビジネスをサポートするという循環型社会を作り出すことである。

 すべての経営資源を自前で取り揃えることは必ずしも顧客ニーズにマッチしていない場合があることを肝に命じるべきである。

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。