●今回は「潜在力」の後半部分を取り上げる。前回までに、潜在力では「外国人」や「高齢者」などをスタッフとして有効活用することが重要だという考えを示した。aまた、M&Aに強い組織の在り方について言及し、自らの電子自治体の潜在力を示唆する「効率的な尺度」を公開することの必要性を述べた。
●さて後半部分では、カネと技術について話を進めたい。ここでは「コラボレーション」のための仕組み作りや、「人材育成」による「循環型社会」の創造が議論の範囲となる。

■カネ
Q15
「潜在力」の強化に際して、「カネ」については何に留意しなければならないのか?



A15
自らの“強み”をより強くし、“弱み”をカバーする「コラボレーション」体制の確立のために投資するのがポイント

 これまで繰り返し述べてきた通り、「カネ」につていは、かかるコストだけでなく、それに見合うだけのリターンが得られるかにも注目する必要がある。したがって、電子自治体の「潜在力」においても、投資したコストが新たなリターンを生み出す「仕組み」が用意されているか、あるいはそうした「仕組み作り」の素地があるかがポイントとなる。

図

「カネ」に関する潜在力の検討課題

・コラボレーション

 電子自治体の潜在力強化のためには、自らの“強み”をより強くし、“弱み”をカバーするための、あるいは次世代にはどうしても欠くことのできない新しいサポートを生み出すための「エネルギー」として、他自治体や企業、ヒトとのコラボレーションが有効である。

 当然、コラボレーションのためにはそれなりの投資(カネ)が必要となるが、ただ隣同士だからといった安易な理由で組んだのでは、それに見合うだけのリターンは望めない。

 では、どういう戦略を取るべきなのか。ネットワークの概念に従えば、点と点を結び、メッシュ状の連合体を作ることである。このとき、留意しなければならないのが、こちらが組みたいと考える自治体などには実は競争相手が多いということ、あるいは相手にも選ぶ権利があるということだ。つまり、こちらも相手にとって魅力となるものを持っている必要がある。

 コラボレーションは、ここぞと思うところとの協力関係を作る上で、鍵となる部分を相手と共有することだ。成功や失敗などの過去の経験、貴重な人材を集める方法どは、コラボレート先が求めるノウハウであろう。したがって、自らが拡大再生産できるバリューは何か、引き続き創造可能な原動力をどう確保するか、といった点を事前に見極めることが大切だ。そうした意味では、「相手が出せないもの」「苦手意識のある部分」を自ら強化することが求められよう。

・自然環境、空気、水がメリットとは限らない

 自らをアピールする場合、ややもすると、「大都会には自然が少ないが、地方には手つかずの自然環境がある」という発想をしがちだ。ところが、こういった「素朴」がいつも歓迎されるとは限らない点に注意しよう。

 「業務のことはすべて忘れて、ゆっくりしてください」という姿勢を強調し過ぎると、リラックスしながらも完全には業務から離れられない人達の市場をミスミス逃がすことになる。

 それよりは、「ユビキタス状況」(いつでも、どこでも、誰とでも)を作り出し、使いたい時には「いつでもどうぞ」という立場を貫くことが電子自治体の役割であり、強みとなる。


林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。