●今回と次回は「潜在力」を取り上げる。「潜在力」とは、将来に向けた成長性や拡張性のことであり、自治体が成長するためのエネルギーの蓄積でもある。電子自治体の比較優位を確立するためには、新たな担い手や資源をコミュニティの中から発掘すると同時に、外部からも迎え入れ、この電子自治体に加入したいと“行列を作る”潜在顧客が登場することが望ましい。これが実現すれば、戦略的に成功したといえるであろう。

■付加価値機能を巡る問題意識

・ユーザーを意識した電子自治体での「潜在力」とはどんなものなのか。

 「潜在力」とは「キャパシティ」である。つまり、「同じパフォーマンスを余裕でこなし、まだ余力がある」あるいは「今は同じレベルだが、いずれ大きく成長する力を持っている」状態を指す。

 潜在力を高めるためには、自治体を構成する経営資源の「ポートフォリオ」(組み合わせ、および組み合わせにより生じるリスクとリターン)を常に見直し、「戦略的に攻める」自治体を目指すことが分かりやすい。

 戦略的に攻める場合には、自治体の構成要素を若返らせ、コストが安くて優秀なスタッフを揃えるか、多少コストは高いが即戦力としてすぐに活躍できるスタッフを求めることが望ましい。

 ただし、そうした人材は、各方面から引く手あまたで競争が激しく、コストは上昇傾向にあろう。そうしたことを回避するためには、早めに獲得するか、従来見過ごされてきた「新たな活力」に目を向けることが必要となる。

 また、自治体の持つ経営資源によっては、正反対の「安定的、成熟的」自治体を目指すという戦略も考えられる。

 そうしたことを前提に置いて、今週は「潜在力」を高めるための「ヒト」と「モノ」について考える。

■ヒト

Q13
「潜在力」の強化に際して、「ヒト」については何に留意しなければならないのか?



A13
ワークシェアリングの下で、アクティブシニア(元気な高齢者)や外国人を積極的に活用せよ。外国人や外国企業向けの特区構想などもポイントになる

 電子自治体おいて、「ヒト」の潜在力を高めるには、新たな競争の担い手である「高齢者」や「外国人」をいかに活用し、いかに引きつけるかである。究極のマネジメントは、「高齢者による高齢者のための」コミュニティ作りを目指すことであり、「外国人スタッフ」により、「コミュニティ内の外国人」をサポートするシステムを作り上げることである。

図

ヒトに関する潜在力の検討課題

・高齢者の活用

 高齢者の有効活用に際しては、“超高齢時代”を迎えるなか、高齢者を「これまでのような高齢者(あるいは弱者)」とせず、いわゆる「アクティブシニア(元気な高齢者)」を現役世代と見なすことが重要となる。

 こうしたアクティブシニアは、十分な時間を有し、社会的な「ボランティア」、次世代への「智の継承」などに関心が高い。このため、コミュニティへの貢献の潜在力は非常に大きいと考えられる。

 アクティブシニアには早期引退をした世代や生涯現役世代など、様々な生活スタイルの人々が含まれるが、こうした人々は、それぞれのペース、すなわち「スローマネジメント」で生活し、仕事をこなし、社会と関わりたいと考えている。したがって、高齢者の活用では、彼ら・彼女らの経験や知恵をうまく吸収することが肝心だ。一方、高齢に伴う“物理的な弱体化”については、情報システムやその他サポートによって、補佐することが必要不可欠である。

 電子自治体では、ややもすると、効率性やスピード化、業務の高度化ばかりが追求されがちだが、高齢者向けにはハイテクではなく、ローテクの方が分かりやすいこともある。そのためには、既存の慣れ親しんだシステムの外観や作業方法に着目し、処理するためのスピードや中断した後の再開の方法などを考慮したシステムを構築する必要がある。

・ワークシェアリング

 高齢者を活用するための仕組みの一つが「ワークシェアリング」である。アクティブシニアに自分のペースで働いてもらい、コミュニティの潜在力となってもらうためには、業務を分割可能な“セル”に分けることや、引き継ぎが分かりやすい業務などを見つけ出し、高齢者向けのビジネスとして再構築することが大切である。

 初期の頃はアクティブシニアがチャレンジし、アレンジをしたものを、すそ野を広げて高齢者全般に向けたプログラムとして精査するという段階を踏む必要がある。しかし、いったん軌道に乗れば、高齢者が高齢者をサポートし、業務をこなす「完全な系」として位置付けることが可能になる。

・外国人の活用

 もう一つの新たな競争の担い手である外国人の活用には、いくつかの段階が存在する。

 まずは、既に国内に移住、永住している外国人を対象とすることだ。こうした人達には、将来、参政権が与えられ、緩やかに準日本国籍的な待遇に改善されることであろう。そうした場合、外国人受け入れに積極的な自治体を形成し、人材を呼び込むことで、自治体の潜在力を高める戦略が考えられる。

 その第一歩として、期間を限定して留学生や留学生OBをインターンシップとして自治体内で雇用し、電子自治体における外国人へのサポート担当とすることが可能だ。

 次の段階は、日本への帰化や永住を申請しようとする外国人をサポートする電子自治体の構築である。必ずしも、すべての自治体にとって外国人向けのシステムサポートを行うことは得策ではない。外国人対応、外国語対応が、新たなシステムコストを発生させるからだ。

 さらに、海外に居る在外邦人や外国人向けのサービスを展開できる。日本を目指す場合、どういった自治体がどういった人材を求めているかを探る上でのサポートが求められよう。

・海外姉妹都市

 電子自治体の発達に伴い、海外の電子自治体との姉妹都市形成が可能となる。観光客の受け入れ、ビジネスを介したコンベンション、国際セミナーの開催などで、協力体制を作り上げることが可能だ。

 電子自治体間の姉妹都市では、過去に行われた姉妹都市形成とは全く異なる立場での協力体制が求められよう。

 アジア諸国では、各国間で特定業種(特に加工産業やサービス産業など)での人材供給が図られているが、こうした場合、高度化を図る産業などでの研修や人材育成といった分野では、電子自治体の役割が高まってこよう。


・外国人(外国企業)特区

 予想されるのは、かつて江戸時代に存在した長崎の出島のような「外国人特区」が登場することだ。

 これには2つの考え方が存在する。一つは、“遺伝子レベル”で過去にそうしたことが実施されていた「場」(自治体)が手を上げることだ。もう一つは中央から離れ、距離的にハンデを負った「場」(自治体)がデバイドの解消手段とする場合である。

 前者のケースは「横浜」「長崎」「神戸」「横須賀」などを想定できる。後者は「沖縄」「北海道」などが有力だ。

 もちろん、既にブラジル日系人などを中心に、新たな「外国人村」が集積されつつあり、潜在的な競争相手はかなりの数に上るはずだ。

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人材の活用による潜在力向上への期待

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。