●今回と次回は電子自治体における「付加価値機能」を取り上げる。「付加価値機能」は、自治体間の競争時代に差別化を行う上で、最も重要な要素となる。
●黎明期の電子自治体は、基本的なサポート・サービスを満たすことが主な目的であり、差別化の要因が少ない。しかし、そういう時だからこそ、他にはない固有の経営資源の利用や独自性の芽を確実に育てておく必要がある。

■付加価値機能を巡る問題意識

 ユーザーを意識した電子自治体での「付加価値」とはどんなものなのか?

 「付加価値」とは、「同じサービスならば、ローコストで実現できる」とか、「同じコストならば、より良いサービスが期待できる」という状態を指す。

 したがって、一括りに「付加価値」といっても、それはサポート・サービスそのものであったり、リーダーをはじめとするサポート・サービスに携わるスタッフの能力だったり、サポート・サービスを提供するためのランニングコストであったりする。

 どのコミュニティからも同じサポート・サービスを受けられるなら、労力がかからず、利便性が高いところへと、コミュニティの構成要素は流れるはずだ。

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電子自治体における「付加価値」の例

さて今週は電子自治体で付加価値機能を整備する際の「ヒト」と「モノ」について考える。

■ヒト

Q9
電子自治体の付加価値機能の強化に際して、「ヒト」については何に留意しなければならないのか?



A9
リーダーシップの発揮と、アウトソーシングの効率的な活用が重要になる

 電子自治体の付加価値機能を左右する大きな要素に、「リーダー」と「アウトソーシング」がある。つまり、どこまで「リーダー」が組織を引っ張るかだ。自治体外に顔の利く「強いリーダー」「心優しいリーダー」「理論的リーダー」と、他自治体を巻き込んだ「代替性」「補完性」をどこまで意識できるかが、自治体の生き残りをかけた「アピールの材料」となる。

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「ヒト」に関する付加価値機能の検討課題

・リーダーシップの発揮

 自治体の首長は、現実の世界での「政(まつりごと)」での手腕が求められ、それぞれの地域の特殊事情、後継者事情などに左右される。いうなれば、リーダーを好き勝手に選べないということも想定できよう。

 しかし電子自治体では、そうしたハードルがなく、ある意味、リーダーシップを発揮する「電子自治体像」「ブランド」「イメージ」を確立しやすい。

 リーダーは必ずしも「強いリーダー」が素晴らしいとは限らない。本フォーラムの最終回までには、それぞれの目指すべき電子自治体像がおぼろげながらも自治体担当者、関係者の脳裏に浮かんでいるものと期待するが、そうした自治体像にあわせて、自らのリーダーシップの発揮の仕方を検討することが望ましい。

 リーダーシップはリーダー本人に依存するとともに、組織にも依存する。フラットな組織を模索しても、リーダーが目線を低くし、それぞれのフラットな組織ごとに入り込んで具体的な指示を出し、スタッフの協力を得られない限り、前進はない。

 その意味では、リーダーには細やかさが求められると共に、それぞれの組織から戻ってくる反応に臨機応変に対応する柔軟性や経験が求められる。

 なお、ここでいうリーダーは具体的な首長や所属長を必ずしも指していない点に注意して欲しい。

・アウトソーシング

 電子自治体では、業務の効率性を求め、自らが担当しなくてもよい業務、他で代替可能な業務については、積極的にアウトソーシングを図ることが求められる。例えば、データベースを第三の地点にも構築し、災害や危機管理に強い体制を整備することは既にいくつかの電子自治体で検討済みであるが、さらに一歩進め、各種事務計算や温暖な地域での高齢者のサポート、医療対策など様々な分野での業務委託を検討できる。

 不特定多数の外部企業に依頼しなくとも、提携自治体間で事務量を調整したり、共通のインフラを整備することなども可能であろう。

 また、視点を変えると、他の自治体のアウトソーシングを請け負う自治体が登場してもよい。同じ公務員の立場から、守秘義務の遵守が容易であるとの前提に立てば、民間業者に依頼するよりも、コミュニティの信頼を勝ち取りやすい。

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。