●今回は行政サービス機能の後半部分を取り上げる。前回までに、行政サービス機能では、「クラスター制度」「情報交差点」が重要だという考えを示した。内側と外側の双方から組織を見直し、柔軟な対応を行うことが「活性化」「比較優位」の第一歩である。
●さて後半部分では「カネ」と「技術」について話を進めたい。「個人情報」「知的所有権」をどう取り扱うか、「先端技術」を導入し、「アクセシビリティ」をいかに確保するかが議論の範囲となる。


■行政サービス機能と「カネ」の関係

 行政サービス機能で留意すべきは「安かろう、悪かろう」だ。システム構築側に実績があるからといって安心してはいけない。そうそうたるWebサイトの構築経験者であっ ても、リスクが発覚すれば、顧客(市民、企業)情報が瞬時に流出することに変わりはない。どうやってそうしたリスクを防ぐか? 流出した場合のコスト負担をどう考えるべきか? これらが最初のハードルである。

図

「カネ」に関する行政サービス機能の検討課題

Q7
行政サービス機能の強化に際して、「カネ」については何に留意しなければならないのか?



A7
バランスの取れたセキュリティの確保で支出を抑え、個人情報の有効活用で最大限の収入を考えよう

・セキュリティ

 行政サービス機能における「カネ」は、セキュリティ管理にどれだけのコストをかけるべきか?という問題に帰着できる。

 セキュリティとは何か。究極は個人情報が他人に悪用されないことだが、より積極的には、リスク管理をどうするのかという課題への取り組みだ。

 コストをかければかけるだけ、立派な管理ができそうなものだが、実際には鉄壁の守りなど存在しない。

 膨大な費用をかけて100%に“近い”セキュリティを確保するよりは、70%前後の守りに徹し、残りは万が一リスクが発生した時に、被害を最小限に抑えるために臨時に出費できる体制を整え、柔軟に対処する方が効率的だといえる。

 この際、少なくとも誰が責任者で、全体を見渡すのかというシステム回りをハッキリさせることが重要である。加えて、電子自治体では、ボタン1つですべてを見渡せ、全部の指示を出せる状況にあるからといって、慢心していてはいけない。リスクの発生時刻、発生場所、担当者とリスク発生場所の距離、広報などのスタッフの有無などによって、対応が全く異なってくるからである。

 なお、緊急時にはデジタルとアナログの双方のツールを活用して、いかに効率よく対処できるかがポイントになってこよう。


・個人情報の有効活用

 個人情報は漏らしてはいけない。それはもちろんだが、自治体が把握している個人の属性などの情報活用に関しては、全く異なる発想が可能だ。例えば、市民の登録を募り、一定数以上のアンケートや実験用の被験者を確保できるのであれば、これはこれで企業や大学、研究所などからすればありがたい話であり、立派なコミュニティ・ビジネスとなる。

 「そんなことは断じて許せない」「個人情報の売り買いなどできるはずがない」と考えるのは早計だ。例えば、最近流行のフィルムコミッションなども、こうしたビジネスモデルの一部だと考えれば分かりやすい。

 フィルムコミッションの場合、自治体が撮影場所を提供し、警察や消防など撮影に伴う様々な手続きをワンストップで迅速に行うことで、ビジネス側の利便性を図る。その時、個人情報を活用し、先方が必要とする属性のエキストラを即座に提供できれば、林立するライバルたちの中での自分たちの競争力も高まるというものだ。

 同様に、「アンケート」に協力的な自治体、「新製品」のテストマーケティングに適した人口分布を有する自治体などが出現してもよい。

 こういう風に考えると、行政サービスは単に潔癖なまでに防御するものではないということに気が付くべきである。

 リスクを最小にすることも大事だが、一定のリスクの元で、リターンを最大にするコミュニティがあってもよいという発想が必要だ。行政サービスとは、コミュニティに属する市民や企業の満足の最大化だと考えれば、個人の了解がある範囲での「個人情報の積極活用」があってもよいはずである。


林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。