●今回と次回は、マーケティング機能を取り上げる。電子自治体の主たる目的は、電子化による行政サービス機能の強化にあるが、当ラボでは「次の次」を意識して「マーケティング機能」の強化から話を進めたい。

●「マーケティングから取り組むべき」というのは、当ラボから提示する強いメッセージである。電子自治体は国からの要請に基づいて一定期間内に達成するものではあるものの、その後に訪れるであろう“自治体間の戦国時代”での「競争優位」を考えるきっかけにして欲しい。

■マーケティング機能を巡る問題意識

 電子自治体について、なぜマーケティングから取り組むのか? 最大の理由は、マーケティングを前倒しで意識することで、行政サービスに厚みが出てくるからだ。

 「マーケティング」とは、「売る姿勢」のことであり、「売る努力」のことでもある。「地方自治体は商売をしない」とか、「インフラを整備した後は、民間企業の努力に任せる」といった思想がまかり通っているが、それでは、今後の“自治体間の戦国時代”を勝ち抜けない。

 黎明期は、行政サービスなど基本機能の充実、基本インフラの整備に全力投球しがちだ。しかし本当に重要なのは、「次の次」を考え、本格的な“営業展開”の実行を視野に入れ、優先順位を入れ替えるという「戦略」である。これこそが、やがて訪れる“戦国時代”で実を結ぶことになる。

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電子自治体の高度化に求める機能

■市民-企業-自治体の規模と連携を考える

 もう一つ、重要なポイントは、電子自治体で対象とする市民(C)や企業・展開ビジネス(B)のサイズは、リアルでの自治体(G)のサイズで一義的に決まるものではない--ということだ。

 電子自治体では、バーチャルの強みを活かしつつ、“下克上”を目指すことができる。電子自治体の第一段階は、既存のサイズやフレームをデジタルに置き換え、効率化を図ることであるが、21世紀は必ずしも「大きいことが良いことだ」とは限らない。「お客様は神様です」というのもあり得ない。

 どういったコミュニティを形成し、誰を顧客と考え、どういうサービスを目指すのか。そうした「グランドデザイン」を描き、ビジョンとミッションを明確にした自治体が、粛々と新たな電子自治体の構築に取り組む。これが大事である。

 このことは、自治体内での暗黙の序列、つまり「県→市→区→町→村」という既存のフレームサイズの中で、自らのできる範囲、可能なサービスを縮小させることなく、次世代での生き残りを模索するよいきっかけを与えることになる。

 そうしたことを念頭に戦略を展開する場合、様々な組み合わせが存在する。

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市民(C)、企業・ビジネス(B)、自治体(G)の規模と連携において、様々な組み合わせが存在する

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。