●これまで手探りでコンテンツとして何を提供すべきか試行錯誤してきた電子自治体だが、そろそろ定番ともいえるものが見えてきた。しかし、実際に導入する段階になると、各地域それぞれの“事情”をどう克服するか(あるいはどう対応するか)が問題となってくる。

●このコラムでは、各自治体のもつ制約条件(具体的には経営資源)別に、どのような電子自治体を展開可能か、どういう機能が盛り込まれるべきか、まず検討したい。その上で、電子自治体間の競争で優位性を維持するための“処方箋”を提示していく。計12回、ほぼ毎週の議論になるが、最後までお付き合いをいただければ幸いである。
林志行

 第1回目に入る前に、今後、議論を進めていく上で、このコラムの全体像を紹介しておきたい。全体を把握していただくことで、どこに焦点を当てて議論が展開されているか、一目で分かると思うからだ。計12回で予定している内容は、以下の通りである。

・第1回 全体像・イントロ
・第2回 マーケティング機能(1)
・第3回 マーケティング機能(2) 
・第4回 行政サービス機能(1) 
・第5回 行政サービス機能(2) 
・第6回 付加価値機能(1)
・第7回 付加価値機能(2)
・第8回 自治体の潜在力(1)
・第9回 自治体の潜在力(2)
・第10回 未来の電子自治体論(1)
・第11回 未来の電子自治体論(2)
・第12回 まとめ~課題抽出と戦略的示唆

 電子政府がいよいよ本番を迎えようとしているなか、地方自治体が整備すべき「電子自治体」もフレームを固める時期が到来している。まずは、各種申請の一部ないし全部において、電子データでの申請を受け付けるところからスタートするが、いずれ自動化され、省力化されることは自明だ。

 その次に到来するのは、自治体間の競争であり、より良き電子自治体を求める住民の“バーチャルな移動”ではなかろうか。そこで、電子自治体を巡る動きを考えるにあたって、以下の仮説を設定した。

「仮説の設定」
  • 自治体の体力に応じた様々なシステム構築が模索される
  • 一部自治体には過分なシステムが極めてリーズナブルな価格で提供される
  • しかし、システム自体を維持するための費用の捻出に困る
  • 自治体間における市町村合併では、システムの整合性が問題となる
  • 一部自治体が電子自治体におけるパフォーマンスの向上、効率運営を心がけ、さらには、バーチャルな住民の獲得に動く
図
電子自治体システム構築におけるイシューマップ

 以上のことを踏まえた場合、自治体が競争優位を獲得するために備えるべき機能とは何か?というのが今回の電子自治体論の基本的な問いかけである。

■まずはステークホルダー(利害関係者)を整理する

 電子自治体のシステム構築を意識する上で、まずは「ステークホルダー(利害関係者)」を整理してみたい。

 一次的なものとしては、中央政府と地方政府、国民(県民、市区町村民)、企業(大企業、中小企業、マイクロ企業)が想定できる。すなわち、「G(Government)」「C(Citizen)」「B(Business)」--である。この場合の企業は、システム構築者ではなく、地域に登録された企業を指す。より広い概念では、海外企業を含む。また、マイクロ企業は個人レベルを主体とした企業(SOHOを含む)として定義可能である。

図
電子自治体におけるステークホルダー(利害関係者)

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。