本コラムも今回で最終回である。最後は個人的な期待も込めつつ、「電子自治体(電子政府も含め)の将来像」についてつづってみたい。来年どころか数年先の話であるから、鬼に笑われるどころではないかもしれないが……。

 電子自治体の将来像といっても、全く想像もつかないようなものではなく、現在、推進しようとしている方向のあくまで延長上にあるはずである。大きくは「業務コストのさらなる削減」、そして「住民サービスのさらなる向上」という2つの方向から、今後顕在化するであろう様々な課題を予測できるだろう。そして、様々な課題を解決していくうえでの自治体CIOの役割について考えてみたい。そこに電子自治体の将来像が存在するはずである。

【1】業務コストのさらなる削減 ~申請者側、行政側双方の業務プロセス全体としての効率化~

 現時点の電子自治体・電子政府の推進においては、いわゆる電子申請がその中心となっていることは否めない。しかし残念ながら申請書を電子的に送受する仕組みの構築ばかりに目が向いており、文書を電子化するメリット、特に業務コストの削減ということについては必ずしも結びつかないのでは、という指摘は多い。

 電子自治体の方向性の一つ目は、この「より一層の業務コスト削減の推進」を挙げたい。そのためには単に電子申請を可能にするだけでなく、電子文書を前提としたバックオフィス業務の電子化、すなわち行政側(受理側)の業務プロセスの見直しが必要となる。

 今年6月に提示された自民党e-Japan特命委員会の「電子政府実現に向けた緊急提言」においても、「電子政府の本質は行革であるという指摘が強くなされているにも関わらず、小さな政府の道筋が見えてこない」「各省庁は、自分の所轄する手続きを徹底的に簡素・合理化するために全面的に見直すこと」という強いコメントが示されている。まずは、現状の行政手続きの仕様と既存の業務プロセスを再チェックし、必要に応じて再構築することを検討しなければいけない。

 さらには、申請者側の業務プロセスと行政側の業務プロセスの「トータルとしての効率化」も将来的には考えなければいけない。申請手続き(特に企業からの申請手続き)において、 以下のような双方の業務プロセスを連続するひとつの「系」ととらえて、全体を最適化するというアプローチである。

(1)企業内業務プロセス
(2)企業内電子申請書作成プロセス
(3)行政側電子申請受付プロセス
(4)行政側審査プロセス
(5)行政側許認可プロセス

 いわば、申請企業と受付行政機関におけるSCM(サプライチェーンマネジメント)というとイメージが近いだろうか。 これに近い事例として米国連邦食品医薬管理局(FDA)における「新薬申請の電子化」がある。

 先進的な医薬品メーカーにおいては、新薬申請の前段となる一連の業務プロセス(研究開発、臨床試験等)が社内で電子化されており、そのデータをそのままFDAへの電子申請データのベースすることができる。つまり、社内業務システムと電子申請システムが連動しているわけである。

 さらにFDAにおいても受領した電子申請データを最大限に活用する形で審査官による審査が実施され、新薬許可が行われているという。聞くところによると、医薬品メーカー、FDA双方の業務コストが削減されただけでなく、申請から新薬許可までの期間も、従前と比べてかなり短縮されているらしい。新薬許可までの期間が短縮されるということは、医薬品メーカーの国際的競争力の向上に直結する大きな効果である。

 このように、今後普及していくであろう電子申請においては、申請者側・行政側双方の業務プロセスについて「トータルとしての効率化」という視点でコスト削減の実現を目指したいものである。

筆者紹介 三谷慶一郎(みたに・けいいちろう)

三谷氏写真 NTTデータ経営研究所情報通信コンサルティング部長。電子政府・電子自治体や電子商取引分野、それらの基盤となるセキュリティ分野などに関連したコンサルティング活動に取り組んでいる。日本システム監査人協会理事。