ふと気がつくと今年も残り少なくなっている。年が明ければe-Japan戦略の目標年次である2003年となる。電子自治体は、既に構想やビジョンなどを語っている段階ではない。確実な実現に向けた具体的なプランが求められているのだ。

 さて、本連載もあっという間に3回目を迎えている。紙面が尽きぬうちに自治体CIOの皆様へのメッセージを綴っていきたい。今回は、電子自治体実現に向けて留意すべきポイントをいくつか提言したい。

【1】目的の明確化
電子自治体構築の「目的」というものを明確にすること。技術論でも制度論でもない、当たり前のこのことが自治体CIOにとって最も重要であることをまず述べておきたい。
【2】独自性の追求
電子自治体推進において、個々の自治体の特徴を出すこと、独自性を追及することも重要な視点であろう。
【3】国・民間機関とのハーモナイズ
効率的な電子自治体推進のためには、主体である自治体の努力だけではなく、国・民間機関といった関連主体の動向とのハーモナイズにも留意する必要がある。
【4】共同アウトソーシングというオプション
いわゆる共同センター化あるいは共同アウトソーシングという考え方であるが、個人的にはこれはかなり魅力的な選択肢ではないかと考えている。

 それでは、これら4つのポイントについて、それぞれ詳しく見ていこう。

■【1】目的の明確化

 電子申請を行うことや行政文書管理システムを導入することは、あらためて述べるまでもなく単なる「手段」であり、「目的」ではない。自らの自治体における電子自治体の推進が、何を目的として行われるものなのか、このことをまず明確にしてほしい。

 例えば「住民への行政サービスを向上させること」というレベルでは、目的としては曖昧すぎる。「どのような住民を対象として」「何のサービスについて」「どのように向上させていくのか」「そのためにどのようなシステム構築を行うのか」といったことを一つずつはっきりさせてほしい。

 あるいは「地域活性化を目指す」なら、「地域活性化の課題が現状どのようなもので」「その課題のうちの何を解決させるために(電子自治体のみによって地域活性化が実現できるわけではない)」「どのようなシステムを導入し、どのような施策を講じるのか」と、ここまで落とし込んでいかないと目的を明確化したとはいえない。

 目的を明確化しなければいけないのは、目指すべきゴールを共有し、日々の検討の方向性が間違っていないことを確認していくためである。

 近頃、「情報システムの投資対効果」とか、「バリューフォーマネー」(VfM:一定の支払に対し最も価値の高いサービスを提供するという考え方)という言葉をよく聞く。「バランスドスコアカード」(Baranced Scorecard:米国のロバート・カプランらが提唱する業績評価手法。財務的視点、顧客の視点、社内ビジネスプロセスの視点、学習と成長の視点の4つから評価を行う)などをはじめとする効果測定の手法についても話題になることが多い。

 しかし、どのようなアプローチを取るにせよ、「システム化の目的」がはっきりしていなければ効果を計測することなどできるわけがない。効果算出は重要なジャンルであるが、何よりもまず、「無目的なシステム構築」を行わないことが肝要である。

 電子政府・電子自治体推進が過熱するにつれ、「それが何の意味を持つのか。効果など本当にあるのか」という声を耳にすることがあるが、多少短絡的ではないだろうか。電子自治体に意味がないのではなく、「無目的な電子自治体推進に意味がない」のである。CIOの皆様には最初の一歩でしかも最も重要な「目的の明確化」を確実に行うことをお願いしたい。

■【2】独自性の追求

 電子自治体実現にあたっては、電子申請、電子調達、文書管理等など、いろいろなシステムが構想されているが、誤解を恐れずに言うならば、必ずしも全自治体が歩調をあわせて、同じように取り組んでいく必要はない。

 自治体独自の情報化を指向すること、あるいは最終的に同様なシステム整備を行うにしても、例えば行政内部の合理化を目指すためのシステムを優先構築する、あるいは効率化要望の強い企業からの行政手続を優先して電子申請化する、といったプライオリティ付けは必要ではないだろうか。

 そして言うまでもなく、このプライオリティ付けは自治体の経営戦略そのものと合致していなければならない(システム監査基準の中には「情報戦略は、経営戦略との整合性を考慮して策定しているか」というチェック項目がある)。

 優先順位だけでなく、投資の強弱という観点もある。

 必須ではあるが比較的重要ではないシステム構築については、よくばらず標準的な仕様に押さえ、自治体として力を入れたいジャンルのシステムに大きな投資をかけ差異化を目指すこと、このあたりも検討の余地がありそうだ。

 例えば、一時期の中堅金融機関において、あまり業務的に大差ない勘定系システムは標準パッケージを導入、もしくは共同センター化することによってコストを抑え、業績に直結する可能性の高い情報系システムについては差異化を追求するために別途コストをかけて構築する、といったケースが見られた。このような形態などは参考になりそうに思う。

■【3】国・民間機関とのハーモナイズ

 これに関連する国の動きとしては、認証基盤(公的個人認証基盤など)や、ネットワーク基盤(LG-WANなど)といった総務省を中心とした電子自治体インフラの整備の動きがある。あるいは国土交通省などが推進している「自動車保有関係手続のワンストップサービス」のような国・自治体が連動したサービス開発などが挙げられる。

 このワンストップサービスは、国・自治体・民間機関にまたがるまさに国家横断型のサービス開発であり、ワールドワイドでもあまり類を見ない取り組みである。2005年に実施が予定されているので、電子自治体推進のプランニングに組み入れることを検討してみる価値はあるだろう。

 また、民間機関としては、電子決済ソリューションの本命とされている「マルチペイメントネットワーク」を推進する日本マルチペイメントネットワーク推進協議会の動きは見逃せない。

 国あるいは関連する民間機関の動向をウオッチし、タイミングよく効率的に自らの電子自治体推進に取り込んでいくことを心がけてほしい。

■【4】共同アウトソーシングというオプション

 「電子自治体の実現に際し、共同化を伴うアウトソーシングを積極的に活用し、住民サービスの向上と業務プロセスの再構築による地方自治体の業務改革を推進するとともに、IT関連産業をはじめとする新需要創出による地域経済の活性化を図る」──今年開かれた経済諮問会議において、片山虎之助総務大臣から提出された資料(「電子自治体とアウトソーシングの推進がもたらす民間ビジネスの活性化」)に、こんなメッセージがある。

 いわゆる共同センター化あるいは共同アウトソーシングという考え方であるが、これにはやはり大きなコスト削減効果を期待してしまう。また、共同センター化されることにより結果的に重要なデータが集中管理されるので、高いセキュリティが維持しやすい、というメリットも見逃せない。

 半面、微妙に異なる個々の自治体の業務仕様をいかに統一するか、という課題があることも十分予測がつく。が、これはある種の割りきりしかないと思う。

 過去のしがらみに固執することなく、思い切って現場作業を変更するという勇気を持つべできであろう。ちなみに米国でも「シェアードサービス」と呼ばれる共同センター化への動きはある。ただし、共通仕様化に関して複数州政府間などでもめることは、やはり存在するという話を先日関係者の方から聞いた。このあたりの状況は米国も日本とあまり変わらないようだ。

 先述の中堅金融機関のケースのように、共通仕様で十分なシステム範囲と、内部に残すべきシステム範囲を整理し、周囲の自治体と共同アウトソーシングを行うこともぜひ視野に入れてもらいたい。


筆者紹介 三谷慶一郎(みたに・けいいちろう)

三谷氏写真 NTTデータ経営研究所情報通信コンサルティング部長。電子政府・電子自治体や電子商取引分野、それらの基盤となるセキュリティ分野などに関連したコンサルティング活動に取り組んでいる。日本システム監査人協会理事。