■職員にCR-ROMを配布、インストールは各自で

柏原康文氏
和歌山県
企画部IT推進局
情報システム課課長
柏原康文氏

 端末をサーバー側でまとめて管理できるシン・クライアントは、業務の効率化というメリットもある。例えば、OSにパッチを当てるなどの作業が発生しても、サーバー側で一括して行える。「これまでは、異動時期の職員のパソコンの設定変更やOSなどのバージョンアップ作業は時間経費も掛かる大仕事でした。出先機関もすべて回らなくてはなりませんでしたから」(柏原氏)。

 異動に伴う事務の引継ぎにもシン・クライアントは便利だ。従来は前任者がフロッピーにデータを入れてを渡すなどして引き継ぎを行っていたが、今後はサーバーの設定を変更すれば、新しい担当者は必要な過去の全書類を引き継げる。

 和歌山県では、シン・クライアント導入を決めた2003年10月にまず所属長全員に研修を実施した。翌2004年6月には全職員に研修を行い、セキュリティ強化とシン・クライアントについて周知した。システムが完成した10月には、まず各部の総務課に試験導入、12月からは本庁、2005年1月からは出先機関で導入を開始した。3月3日の時点で約1200台がシン・クライアントに切り替わっている。

 パソコンをシン・クライアント端末化するときに必要なソフトのインストールは、職員一人ひとりが自分で行う。「こちらが出向いてインストールしていては、手間もコストもバカになりません。そこで、順を追ってクリックしていくだけでソフトをインストールできるCD-ROMをベンダーに依頼して作ってもらいました」(企画部IT推進局情報システム課主任の多田和夫氏)。これを各課に配布した。職員は3月中に各自インストールを済ませればよいことになっている。

■基幹業務や防災システムをどうするかが今後の課題

 今回のシステムを受注したのは、NTT西日本とNTTアドバンステクノロジを委託先とするグループが一般競争入札で受注した。4000台のクライアントを75台のサーバーで管理、職員のデータを置くファイルサーバーは専用のものを2台(1台はバックアップ)用意した。シン・クライアントのプログラムはシトリックス・システムズ・ジャパンのMetaFrameを使っている。「対応できるプリンターの機種が一番多かったのがMetaFrameでした」と多田氏は採用理由を説明する。結果として、ほとんどのプリンターを使うことができたという。

 和歌山県では、今後新たに作る電子申請などのシステムについては、基本的にはシングルサインオンの基盤に載せてシン・クライアントで動くようにしていく考えだ。なお、汎用機で動かしている財務、人事、給与など約40業務は、現在はパソコンではなく専用端末を使用している。これらをシステム更新時にシン・クライアントに載せるかは今後の検討課題だ。

 そのほか、動画の扱いも課題だ。現在のシン・クライアントは画面の差分をやり取りするシステムなので、動画を扱うのは難しい。だが、2年後には映像データを活用する防災システムが完成予定だ。また、これからは県のWebページでも動画コンテンツの提供が増えてくる可能性がある。「シン・クライアントのソフトがバージョンアップして動画に対応してくれればいいのですが……。そうでなければローカルカードか専用端末でアクセスすることになるでしょう」(柏原氏)。

 シン・クライアントの導入の真っ最中である和歌山県では、今のところ大きなトラブルは発生していないという。もちろん、使いながら修正を加えていった部分はある。「当初はフォルダだけなくファイルにも権限を付与していましたが、権限を切り替えて新しく使おうとしたときに、ファイル数が膨大だったために権限が切り替わるのに時間が掛かり過ぎていました。これは、フォルダにだけ権限付与するように変更して対応しました」(柏原氏)。

 和歌山県のシン・クライアントは、間もなく最初の大きな山場を迎える。大規模な人事異動が発効する4月1日を無事に乗り切れば、まずは導入成功と言えるだろう。

※編集部注 その後の電話取材(5月11日)によると、利用者が一挙に増えた4月当初は動作速度が遅くなるなどの問題が発生したが、設定を再調整して現在は安定稼動しているという。