■既存パソコンをそのままシン・クライアント端末に

 和歌山県のシン・クライアント端末は、これまで職員が使っていた既存のパソコンをそのまま転用している。コストと業務の両面から、既存資産のパソコンをそのままシン・クライアント端末として使えることが、導入の大前提だったのである。

 いくらセキュリティ対策が重要だといっても、新しく4000台ものクライアントを購入する予算はとても獲得できない。既に一人一台が配備されているパソコンをそのままシン・クライアント端末として使えるなら、端末購入コストが発生しないだけでなく、パソコンの性能もさほど高くなくて済むので、リース期間の延長も可能だ。

 和歌山県では、シン・クライアント導入に合わせて、職員が使っているパソコンのリース期間を2年間延長して、5年から7年とした。このコスト削減効果などにより「10年間で初期投資は回収できる計算」(柏原氏)だという。

■和歌山県が導入したシン・クライアントシステムの概要
和歌山県が導入したシン・クライアントシステムの概要

■シン・クライアントの開発体制
●委託先 ●再委託先(保守管理)
NTT西日本 NTTネオメイト関西
NTTアドバンステクノロジ 富士通サポートアンドサービス
●再委託先(開発) サイバーリンクス
松下電工インフォメーションシステムズ 中央コンピュータ
富士通 富士通ビジネスシステム
富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 都築テクノサービス
富士通関西システムズ ●協力
NTTソフトウェア シトリックス・システムズ・ジャパン

 ただし、シン・クライアント端末では対応できない業務もある。

 今回、和歌山県のシン・クライアント端末ではWord、一太郎、Excel、Accessなど一般的な業務用ソフトや、県のグループウエアなどが動く。しかし、CADやGIS(地理情報システム)といった大きなデータを扱う業務は、シン・クライアントのサーバーでの対応は難しかった。また、国に提出する文書を作成する業務で、専用アプリケーションが必要な場合はシン・クライアントでは対応できないものもあった。

 和歌山県では、コスト面だけでなく業務上の必要性からも、一台のパソコンを、従来通りのパソコンとシン・クライアント端末の二役で使用したかったのだ。これを実現するため、和歌山県では2種類のICカードを使い分けて対応している。今回のシン・クライアントの肝の部分だ。システム構築を担当したNTT西日本和歌山支店のe-ガバメント推進室課長代理の榎本武志氏は「こうした使い方は例がなかったこともあり、作りこみが難しかった」と振り返る。