■将来の電子自治体サービスを最も必要とするのも間違いなく高齢者達だ。それでは、高齢者に使いやすく、また、使ってみたいと思わせる魅力ある電子自治体はいかにあるべきなのか。今回は2003年11月に老テク研究会が実施したアンケート調査結果を公開する。まずは高齢者の方に今ある電子自治体(今回は都道府県のWebサイト)を閲覧してもらい、情報提供のあり方についての意見を、電子メールによるアンケートで調査したものだ。(文・近藤則子 老テク研究会事務局長/早稲田大学客員研究員)
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■高齢者は自治体サイトに何を求めているのか
企業や学校など組織に帰属していない一般高齢者にとって、自分が住んでいる地域からの情報が個人と社会を結ぶ生命線である。しかし多くの大都市では回覧版をまわせるような人と人とのつながりは少なく地方では回覧版を届ける体力がないからいらないと断る高齢者もいるという。自治体のWebサイトは、高齢者が使いこなすことができれば、地域との絆を深める最高のツールとなり得るだろう。将来の電子自治体サービスを最も必要とするのも間違いなく高齢者たちだ。それでは、高齢者に使いやすく、また、使ってみたいと思わせる魅力ある電子自治体はいかにあるべきなのか。まずは高齢者の方に今ある電子自治体(今回は都道府県のWebサイト)を閲覧してもらい、情報提供のあり方についての意見を、電子メールによるアンケートで調査した。
この調査「シニアに使いやすい、魅力的な自治体のホームページ調査2003」は、シニアパソコン教室を主宰する非営利団体に協力していただいた。東京都で活動するいちえ会(代表:大林依子氏)、京都府で活動する金曜サロン(代表:森田信治氏)の会員有志に全国の県庁を閲覧してもらい4つの視点で評価してもらった。協力してくれた高齢者たちは合わせて31人。平均年齢は67歳である。
参加者はメールのやりとりなどインターネットを日常的に利用し、高速通信環境が整っている先進的な利用者だが、全員が都道府県のサイトを見るのは初めてだった。充実したその情報内容に驚くと共に、自治体サイトの新しいパワーに大きな期待を持ったという。
■デザインのよさで京都府が一番人気
「デザインが良い」と支持を集めた京都府のトップページ |
東京都は東西のシニアから「膨大な情報を巧みに整理してあり文字は小さくても見やすく、役立つ情報満載」と高い評価である。全般的に西日本の好感度が高いのだが、情報内容の充実度では東日本の評価が高い。関東以北の各県のサイトは情報量が多いがゆえに、「ちょっと訪問」しての印象を聞いた今回の調査では高いポイントを得にくかった部分があるかもしれない。
アンケートの自由記述を見てみると、高齢者が特に良かったというのが各地の個性豊かな観光情報ページである。ブロードバンドに向いたコンテンツでもあり、観光客層として最も期待できる高齢者層にアピールするには電子県庁は最高のメディアであろう。減少傾向にあるという国内観光だが、少人数や高齢者だけでは快適な旅が難しいという地域が多い。地元の人と事前に連絡を取り合い、車椅子の高齢者も安心して温泉に入れるようなサービスを市町村は支援してほしい。
多くの都道府県サイトでは、知事の定期会見を動画で収録・公開しており、インターネットで生中継している県もある。県民からの提言募集、地域活動への助成事業、市民との協働を目指す地方自治体からの積極的なメッセージがこんなにも多く発信されていることに感動し、勉強になったという感想も多く寄せられた。
要望としては、「全体の構成が分かるサイトマップが必要」「文字を大きく出来るようにしてほしい(その説明も付けてほしい)」「検索窓を付ける」「コンテンツメニューの分類をある程度は自治体間で標準化してはどうか」と言った声が目立った。
■使い勝手と好感度は必ずしも一致しない
Webサイトのユーザビリティ(使い勝手)について調べた「自治体サイト・ユーザビリティ調査2003 」(日経BPコンサルティング、2003年9月)との比較も興味深い。必ずしも上位の都道府県が一致しておらず、高齢者の好感度が高かった京都府、東京都は、ユーザビリティ調査ではベスト10圏外だ。両方の調査でベスト10に入ったのは岐阜県、栃木県の2県のみ。ユーザビリティという面からみると「好ましくない」とされている大きくて綺麗な画像や動画による情報は、第一印象の好感度という意味では、意外と貢献しているといえそうだ。なお、最終ページにはアンケート協力者の個別意見も掲載したので、少々量は多い併せてご参照いただきたい。■シニアが好きなサイト | ■アクセシビリティランキング | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■電子自治体地域観光情報サービスを高齢者と協働で
老テク研究会では、利用者である高齢者も参加して電子自治体を作成できないかと考え、「高齢者がボランティアで高齢者にパソコンのてほどきをする」というシニアネット活動を各地の自治体や郵便局と連携しながら推進してきた。パソコンを活用できるようになった高齢者の新たな仕事として地域情報のホームページ作成を推奨している。将来は優れたシニアクリエイターが電子自治体サイトの制作に参画できないだろうかと考え企業や大学と研究を行っている。筆者は今回の調査で電子自治体観光サイトを地域シニアネットと協働で制作できれば高齢者の新しい社会参加を促進し、地域活性化に貢献できる可能性を強く感じた。地域に深い愛着を持つシニアだからこそできる仕事ではないだろうか。国内観光が不振だと言われているが、テレビや雑誌で海外情報は豊富だが、国内観光の情報提供は少ないのも不振の一因であろう。人気の映画やドラマのロケ地になるのは同じ街ばかりだ。最近注目を浴びているフィルムコミッション(自治体でロケ撮影を支援する非営利組織)と協力して情報発信を行い、ネットでの情報収集が常識となっている若いクリエイターたちにアピールできれば、ロケ地誘致にもなろう。いずれはサイト制作という仕事からさらに一歩踏み込んで、市民参加の観光サイトを旅行代理店とリンクできるWebサービスというフェーズまで、ぜひ実現させたいと思う。
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