日立総合計画研究所・編

 電子会議室とは、インターネットのホームページ上に設置した電子掲示板などを使って意見交換や情報交換する仕組みのことです。住民の意見や要望を聴取したり、住民の参加を促進する目的で、ホームページに電子会議室を設置する地方自治体も増えてきました。

 先行して取り組みを進めてきた地方自治体の電子会議室としては、神奈川県大和市「どこでもコミュニティ」、神奈川県藤沢市「市民電子会議室、北海道札幌市「eトークさっぽろ (現在は活動休止中)」などが挙げられます。例えば、神奈川県大和市は、ITをコミュニティ活性化にどう活用するかという強い問題意識を持って、電子会議室に積極的に取り組んできたことで有名です。

大和市では市役所職員が個人名で参加

 大和市では2000年1月に市民会議室「どこでもコミュニティ」を本格的にスタートしました。大和市は、首都圏近郊に位置するため、昼間会社や学校に行くため市外に出る人が多く、昼間人口が減少するという特性を持っています。「どこでもコミュニティ」は、いつでも、だれでも、どこからでも参加できるという電子会議室の特性を活かして、こうした人達も積極的に地域社会に参加できるようにすることを目指して設置されました。まちづくりの話題を扱う「まちづくり会議室」、市民活動と行政との協働のあり方やしくみを考える「市民活動と行政の協働」などの会議室が設置されています。

 大和市の「どこでもコミュニティ」の特色としては次の2点が指摘できます。

 第1に、市役所の職員は全員参加で取り組む方針であることです。職員はeメールアドレスを持つと自動的に「どこでもコミュニティ」のシステムに登録され、市民と個人名でやりとりすることになります。市民と職員自身が責任を持って直接やりとりをし、運営していることが、電子会議室の活性化につながっています。また、大和市によれば、「どこでもコミュニティ」で市民の声を直接聞くことが職員にとって刺激になり、市民から直接提案されると、短期間のうちに改善策が実行されるという例が多く出てきています。

 第2に、大和市の「どこでもコミュニティ」には電話やファックスなどインターネット以外の方法でも参加が可能です。市民はファックスで意見を送って「どこでもコミュニティ」掲載してもらうことも、「どこでもコミュニティ」の情報をファックスでとりだすこともできるようになっています。また、携帯電話などで意見を音声で提出することも可能です。このように、インターネット以外の手段でも情報の取得や発信をできるしくみにすることによって、できるだけ多くの市民が気軽に参加できるようにしています。

 こうした仕組みによって、電子会議室を単なる意見交換、情報交換の場にとどまらず、行政の日常業務をより一層市民ニーズに対応した形に展開するとともに、できるだけ多くの市民の意見をくみ上げ、政策形成に役立てていく基盤にしていくことが重要と言えるでしょう。 このような地方自治体の電子会議室は、もともとは住民に直接行政サービスを提供する市区町村を中心に始まりましたが、最近では三重県など都道府県にも広がっています。

 しかし、電子会議室も課題を抱えています。例えば、多くの一般の電子会議室同様に、匿名で参加することができるようにした自治体の電子会議室では、誹謗中傷などが書きこまれ、会議室が混乱が生じたり、運営する自治体が対応しきれずに会議室を閉鎖してしまったケースも出ています。だからといって、少しでも問題になりそうな発言を頻繁に削除してしまうと、市民の参加意欲を萎えさせてしまう恐れもあります。

 従って、「問題意見等があった場合、誰がどのような権限で削除するのか」「参加希望者について事前登録制を採用する場合、掲示板上でも実名とするのか、あるいはハンドルネームの使用は許可するのか」など、あらかじめ電子会議室のデザインをしっかりと作っておくことが必須となっています。地方自治体が、電子会議室を育て活用していくためには、こうした課題への対応が不可欠です。