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古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント

官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当、

 インターネットを利用する市民が増加し、Webサイトを通した住民サービス提供が増えるにつれて、自治体サイトに対する住民からの要求も高まってきている。これに対応するためには、自治体側に「Webガバナンス」が求められる。Webガバナンスとは、全庁を挙げてWebサイトを統合管理すること。自治体のWebサイト全体をひとつのルールのもとに構築、活用していくという考え方である。

 自治体サイトで提供される情報にはますます鮮度を求められるようになり、電子申請など便利なファンクションの設置も期待されるようになった。そうなると、これまでのように各部署にWebサイト担当者を置くだけでは立ち行かなくなる。特定の少数の職員だけでなく、自治体職員だれもがコンテンツページを作成し、また、Webサイトを通して届いた市民からの要請に応えていく必要が出てくる。

 しかし、もし職員個々人がWebに情報発信できるようになったとしても、それだけでは解決できない要求もある。ユニバーサルデザイン(障害者や高齢者のアクセシビリティ確保はもちろん、だれにでも使いやすくすること)や、プライバシー保護やセキュリティについての要求である。

 こうした時代の要求に応えていくためには、個別部署ごとの対応ではおぼつかない。例えばWebサイトを通じての問い合わせや意見を寄せてきた利用者に対しても、個人情報保護方針にかなった情報収集と利用、管理がなされなくてはならない。全庁的に高いレベルでユニバーサルデザインやセキュリティについて十分な配慮をするとなると、もはやWebサイト担当者個人で管理・統制はできない。全庁を挙げてWebサイトを統一管理する「Webガバナンス」が求められることになる。

 また例えば、検索サイトから特定のコンテンツページへ直接入ってきたサイト利用者に対して、ほかのページにある自治体が伝えたい情報に接してもらうためのサイト・ナビゲーションや、自治体のイメージ、ブランドを統一的に表現するなど、運営戦略上の問題も、個々のコンテンツページを各部署が勝手に作っていてはうまくいかないだろう。

■Webガバナンスは規制強化ではない

 WebガバナンスつまりWebサイトの統一管理というと、何もかも規則どおりにきちんきちんと作らなくてはならないと言うイメージを抱くかもしれない。ガチガチの規制を加えることだと思われてしまうかもしれない。でもそれは違う。コーポレートガバナンスに監視と執行の分離が大切なように、Webガバナンスでも規制の強化が目的ではない。全てをルールで縛ることがポイントなのではないのだ。

 Webサイトの骨組みや、アクセシビリティなど、ルールを統一して全庁で守っていかなればならないものはある。全体に対して最適な解を求める部分だ。一方、各部署が作るコンテンツページの内容や機能の要件は、担当部署ごとにターゲットとする利用者に合わせて構成していかなくてはならない。利用者のニーズに合ったコンテンツ、利便性を高める機能が何かは、担当部署が最もよく知っている。部分としての最適解が求められることになる。

 ルールの部分、いわば監視の部分は専門部署に任せ、現場を預かる部署は利用者のニーズ合わせてコンテンツや機能を提供することで、利用者にとってWebサイトをもっと便利で高度なツールとしようというのが、Webガバナンスの本意だ。ナビゲーション方法などのルールが部署ごとに異なっていては、使いにくいWebサイトになってしまう。また、個人情報保護方針が掲げられているページとそうでないページが混在しては、ユーザーは安心して利用できない。基本的なルールについては全庁を挙げて(現状では難しい面もあるが、理想を言えば消防局、水道局、学校、選挙管理委員会なども含め、自治体の全組織を挙げて)統一すべきである。

 Webガバナンスの概念の下に、必要な部分にはルールを決め、場合によってはテンプレートやCMS(コンテンツ管理システム)を導入するなどによって統一管理する。各部署のパワーは優れたコンテンツの作成と、さらに利便性の高い機能の充実に当てていく。これが理想の姿だと思う。利用者ニーズに合った鮮度の高いコンテンツを提供するためには、できるだけ多くの職員がWebサイトに関わるようにしたほうがよいことは既に述べた。そのための体制作りや、Webサイトに積極的に関わる姿勢を職員に植えつけるのも、Webガバナンスを担当する部署の仕事と言っていいだろう。

 Webガバナンスという考え方の下にWebサイトを再構築していけば、サイト利用者の目的を達することはもちろん、サイト運営者側の目的をかなえるサイトにすることができる。その結果、WebサイトのWebサイトの利便性が高まり、利用がますます増進されることが期待できる。

 電子自治体の実現に向けて、Webガバナンスという概念は、今後のWebサイトには欠かせない考え方になるだろう。