文・古賀雅隆(日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント)

 Webサイトは本や雑誌のようにパラパラとめくって求める情報のありかを探すことができない。リンクをたどるだけで求める情報や機能が見つかればいいが、時には検索機能を使い、またはサイトマップを探して、ようやくたどり着けることも少なくない。まさに「ナビゲーションなくしてコンテンツなし」なのである。だからWebサイトは、使い勝手(ユーザビリティ)が大切だ。

 サイトの利用者は、自治体サイトにナビゲーションの使い方を学びに来るわけではない。いつもと同じWebサイトの使い方で、求めるコンテンツページが見つかれば、そのサイトを使いにくいとは感じない。正確にすばやく、イライラや不愉快さを感じることなく目的のページへたどりつけるナビゲーション、分かりやすく標準に近い使い方が支持されやすいのである。

 そこで「全国自治体サイトユーザビリティ調査2004/2005」では、サイト全体のユーザビリティのチェックポイントとして、

(1)サイト全体に共通するナビゲーションと現在位置の提示
(2)トップページへのアクセス
(3)コンテンツに合ったページ見出し
(4)存在が分かりやすいリンク

を設定した。そして今回は、この4項目についてサーチエンジンへの対応(SEO)も視野に入れてチェックした。

■サイト・ユーザビリティ スコアベスト5(10点満点)
自治体名 スコア
小樽市 8.00
北本市 8.00
藤枝市 8.00
守山市 8.00
加須市 7.50

 サイト・ユーザビリティのスコアが高かった自治体は上記の5サイトだった。自治体のサイト・ユーザビリティ対策は全般的に遅れており、調査対象の300自治体のスコアは、平均すると10点満点で3.88に過ぎなかった。このカテゴリーのスコアが10点満点中2ポイント以下の自治体も20以上あった。

■利用者はこれ以上サイトの使い方を学びたくない

 使い勝手のよいサイトを作る上で大きなポイントのひとつに、サイト全体で共通したメニューを提供し、一貫したデザインやイメージを提示できることが挙げられる。

 例えば小樽市、藤枝市など、このカテゴリー上位のサイトは、主要ページに共通したナビゲーションバーを置いてある。このため、利用者はどのメニューがどこに配置されているかを一度学べば、どのページでも同じ感覚でページ間を行き来することができる。

ヘッダに共通したナビゲーションバーを持つ小樽市のサイト
ヘッダに共通したナビゲーションバーを持つ小樽市のサイト

 調査してみると、同一サイト内でもメニューの表示位置や内容が、ページごとに違っているサイトは相変わらず多い。利用者は、ページをたどるたびに異なるナビゲーションに対応しなくてはならない。そこにあったはずのリンクを、次のページでもう一度探しなおさなければならなくなれば、イラ立ちを感じ「使いにくいサイト」という評価してしまうだろう。

 サイト全体に共通したメニューを用意したほうがいいという理由、そのデザインを大きく変えない方がいいと主張する理由はここにある。

 今回の調査は原則として、トップページからリンクを張ったページのみを調査対象としている。この甘い条件にもかかわらず、ナビゲーションバーの内容・形・位置が一定だったサイトは、わずか4つに過ぎなかった。

 自治体のサイトは、部課ごとに自由にコンテンツページを作り、最近になってそれらを寄せ集めて一つのサイトとしてきたケースが多い。共通するメニューやナビゲーションを設定しにくかった背景は認めるが、いつまでも悲しい過去を引きずっていてはいけない。そろそろサイト全体の使い勝手に配慮しよう。

■共通メニューに用意すべきものは?

内容を予測しづらいリンク名
せっかく用意されたコンテンツも、ナビゲーションが不十分ではターゲットとなるユーザーを引き込むことができない。上記のように「○○市へようこそ」というリンク名だけからでは、市民向けコンテンツや、転入者向けコンテンツの存在を予測することは難しい。

 共通して提示するメニューは、どのページでも使われる可能性が高いものを選べばよい。いつでも使われる可能性があり、どこで使われるか分からないメニューは、利用を制限するよりも、いつでも選択できるようにしておこう。だからと言って、メニューをたくさん用意すればいいわけではない。5~10程度のメニューを厳選して提示する。例えば以下のようなものを置けばいい。

・トップページへのリンク
・訪問者別ページへの入り口リンク
・自治体概要へのリンク
・問い合わせへのリンク
・サイトマップへのリンク
・サイト検索機能へのリンク

 などだ。

 小樽市のナビゲーションバーは、上のほとんどを備えている。観光客、市民、企業と入り口も明示され、役所内の部局別とは異なる、利用者本位のメニュー区分になっている。2段目の文字がやや小さいきらいはあるが、リンクボタンの位置が変わらないので、比較的使いやすい。こうした、全ページ統一(※)のナビゲーションバーをグローバルナビゲーションバーと呼ぶ。

 ※ただし、今回の調査では各サイトのトップページからリンクを張ったページのみを調査対象としており、全ページを調査したわけではない。

■トップページからみた現在位置の提示を

 藤枝市のナビゲーションメニューもなかなか優れている。企業向け、観光客向けの入り口が分かりにくい欠点はある。しかし全ページ同じナビゲーションメニューを貫いていることは高く評価できる。

 さらにすばらしいのは、現在利用しているページが、サイト内のどのような位置にあるかを示す要素も備えている点だ。大きな分類はメニューの色を変えて表現し、さらにトップページから始まる「パンくずリスト」を置いている。北本市も同様の点が優れているサイトの一つだ。

藤枝市のサイト
藤枝市も共通するナビゲーションバーを持ち、また現在位置を示すナビゲーションガイドを整えている。

 Webサイトのアクセシビリティを規定したJIS-X-8341-3には、「作業の中断などによって、それまでの操作の記憶があいまいになり、現在の位置の把握又は作業の目的が分からなくなる場合がある」という理由で、現在位置を示す要素を置くことを薦めている。「パンくずリスト」で現在位置を把握できれば、一度サイトの利用を中断した場合でも、再度そのページに戻って来やすくなるわけだ。

 グローバル・ナビゲーションバーやパンくずリストを作る場合、各ページからトップページへのリンクは、ぜひ置いて欲しい。その理由は以下の2つだ。

 まずサイト内で迷った時に、利用者はトップページへ一度戻ってから、目的とする情報を探し直すことが多い。すぐにトップページに戻れるようにすべきだ。迷ってイライラしている利用者に、トップページへのリンクはどこかと探させては、イラ立ちを強めることにもなりかねない。どのページでも同じ位置にトップページへのリンクを用意しておけば、この問題は解決する。

 また、利用者が目的のコンテンツを見つけた後、ほかにも役立ちそうな情報を探したい時も、やはり一度トップページに戻る傾向が強い。この場合、利用者は目的を達しているとはいえ、トップページへのリンクがないことで、ほかの情報をサイトで探すことを諦めてしまうかもしれない。つまり、市民と自治体が接する機会損失を招くおそれがあるのだ。

 何度でも言うが、サイトの利用者はサイトの使い方に頭を悩ますことなく、直感的に使いたい。トップページからの位置が示されていれば、現在位置を把握するうえで何も考えずにすむ。利用者の負担をできるだけ減らすことが、使いやすさにもつながるのである。

 なお、良い例として取り上げた藤枝、北本の両市とも「トップページ」と「ホーム(HOME)」という表現が混在している。藤枝市では「パンくずリスト」からトップページにリンクを張っているが、ページ左下部には「ホームへ」というリンクを置いている。北本市も「パンくずリスト」からトップページにリンクを張っているのはいいのだが、ヘッダの右には「HOME」というリンクを置いている。どちらかに表記を統一したほうが、より利用者に分かりやすいだろう。

古賀氏写真 筆者紹介 古賀雅隆(こが・まさたか)

日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。