■避難所の住民ニーズは情報発信より情報提供

――実際に情報を発信してみて対応し切れなかった点はありますか。

西方(小千谷市) まず、安否確認情報の収集・発信です。インターネットで安否情報を登録・検索できるシステムを運用している団体「IAAアライアンス」(図表参照)の存在を知るのが遅れたり、実際の避難所でも、地震発生当初は安否確認の情報を把握し切れませんでした。

大野浩之氏
IAAアライアンス会長
(情報通信研究機構情報通信部門
セキュアネットワーク
グループリーダー)
大野浩之氏

――安否確認の方法にはNTTの災害伝言ダイヤルなどがあります。安否情報サイトは、どのような役割だとお考えですか。

大野浩之(IAAアライアンス会長) 安否情報を登録・検索できるシステム「IAAシステム」は、インターネットを介して情報を共有できます。ファクシミリや一般電話からも情報を登録できますが、今回はパソコンと携帯電話向けの機能を提供しました。

 今の日本では、電話による災害伝言ダイヤルで安否が確認できるサービスが比較的充実していますが、回線のパンクで通話できない場合もあるので、IAAシステムのようにインターネット上に情報を出してほしいと思う人もいます。

――個別に安否確認のサービスをしている自治体サイトもあると思いますが、IAAのシステムとの違いは何でしょうか。

大野浩之(IAAアライアンス会長) IAAシステムの概念は、だれでも登録できて、だれでもその登録情報を見られるというものです。駅の伝言板のように、だれでも書けるしだれでも見ることができますが、情報の信ぴょう性に関しての保証はしません。これに対して、ほぼすべての自治体は、きちんと精査して正確な情報を公式発表したいという考えです。

■IAAシステムの被災者登録検索画面
IAAシステムの被災者登録検索画面

 ただ、システムの特徴として、ある災害に対して複数のIAAシステムを並行稼働できる点があります。一つはだれでも書けてだれでも検索できるIAAシステムとして運用し、別のシステムでは検索はだれでもできるが、登録は行政のある担当部門が責任を持って行うという、二重運用ができます。もちろん、逆に検索する側を制限することも可能です。

――自治体では、避難所から住民が安否確認情報を登録・検索できる仕組みはあったのですか?

西巻(柏崎市) 柏崎市では、避難所となる公共施設にはパソコンがほぼ設置されています。とはいえ、市のネットワークにつながっているパソコンであり、セキュリティーポリシーの観点から、住民個々人が勝手に登録することはできません。各避難所で登録の要望があれば受け付けをして、情報化戦略室に連絡するか、あるいは避難所にいる職員が登録する方法もありました。しかし、今回は安否情報登録用の別の専用パソコンをすぐ用意できませんでした。

市川(新潟県) NTT東日本が回線復帰したと同時に公衆回線を避難所に引いて、7市町村の22避難所にパソコン41台を設置しました。使用法は、避難者が情報を収集する、もしくはIAAシステムに登録・検索する目的に限定しました。

西方(小千谷市) 小千谷市では被害が甚大だったので、パソコンも携帯電話も、災害初期にはほとんどの避難所で使えない状況でした。こうした場合に一番強いのは、やはり紙媒体です。災害初期の段階ではWebサイトに掲載した情報を印刷して、避難所に配りました。避難所では、情報発信よりも、情報が欲しいというニーズが強いです。テレビも見られないので、被災者にとにかく情報を提供することが重要です。