■だれに向けた情報かを、分かりやすく提供すべき


西方広幸氏
小千谷市総務課
広報公聴係主査
西方広幸氏

――まずは、新潟県中越地震の被災直後のWebサイトの状況について教えてください。

西方広幸(小千谷市総務課広報公聴係主査)  小千谷市では、2004年10月23日の地震発生から2日間はWebサーバーがダウンしたままでした。復旧次第、Webサイト担当である私が、サイトに情報を掲載する許可を助役から得て、災害担当と相談しながら、災害対策本部で把握している確実な情報から順次掲載しました。

 また、職員が市民からの電話の問い合わせに答えるときにも、Webサイトを活用しました。コールセンターのツールのように、サイトで情報を探しながら回答していくわけです。

西巻隆博氏
柏崎市総合企画部
情報化総合戦略室主査
西巻隆博氏

西巻隆博(柏崎市総合企画部情報化総合戦略室主査) 柏崎市では、10月23日の午後6時半ごろに災害対策本部を設置するまでに、ネットワークの状況を確認しました。幸いWebサーバーは稼働しており、午後7時ごろ、市のトップページを災害情報を前面に出したページに切り替えました。

 被災情報については、災害対策本部の本部役員、部長級の職員がすべて仕切っていました。本部役員が内容を精査して、掲載するよう指示があった情報を、情報化総合戦略室の室員が、市のサイトのCMS(コンテンツ・マネジメント・システム。Webサイトの情報の管理を効率化するソフト)を使って情報を掲載する作業を行いました(下の図表)。室員は、室長を含め計6人。随時情報が来るので、1人が情報掲載作業をしている間に、別の1人が次の情報のページを作成していく体制にしました。さらに、職員全体へも周知するために、庁内のグループウエアの掲示板にも、ほぼ同じ内容を掲載する担当を1人置いて、計3名の随時交代制を敷いたのです。

 地震発生後、情報量が徐々に増えてくると、内容別に情報を得たいという要望が寄せられましたが、少し対応が遅れました。地震発生から2日後の10月25日には、「道路」、「避難所」、「ごみ」など10以上の分類項目を設定して情報を登録・掲載できるようにしました。

柏崎市
CMSで情報を分類して提供した(柏崎市)。

 そのほか、以前からサービスを行っていた、登録制の災害情報配信システムを使って電子メールで地震情報を伝えました。

市川彰(新潟県総合政策部情報政策課電子県庁推進班政策企画員)  新潟県では、県災害対策本部長(知事)の下部組織である連絡司令室の中に置かれた広報班が情報発信を担当しました。しかし、Webサイトの担当は明確には位置付けられていませんでした。そのような状況でしたが、広報班に情報政策課が入って、Webサイトでの災害広報と、Webサイト管理者あての問い合わせや要望などの電子メールの一時的な受付窓口を担当することになりました。情報については、基本的に広報班の班長が公表するかを判断して、一元的に発信するようにしていました。

■外国語での災害情報の発信に限界も

 まず、地震発生当日のうちに、2004年7月13日の新潟・福島豪雨のときに立ち上げた災害ポータルサイトを基に、パソコン向けのWebポータルサイトを立ち上げて、地震に関する必要なコンテンツを追加・整理して掲載しました。災害初期はすべてが重要情報となるので、あまり優先順位付けをせずに、とにかく情報を載せました。発信した日時は必ず明示して、どの情報が最新情報かが分かるようにしました。

■新潟県のWebサイトへのアクセス数の推移
新潟県のWebサイトへのアクセス数の推移

■新潟県の災害情報の発信に関する対応状況
月日 対応内容
10月23日
災害対策本部連絡指令室「広報班」の指揮下に情報政策課が入る
「地震関連情報」のパソコン版ポータルサイト開設
適切かつタイムリーな情報発信について全庁に依頼
「地震関連情報」の携帯電話用ポータルサイト開設
25日
携帯各社にモバイルインターネットサービスの上位階層に新潟県ポータルへのリンクを設定するよう依頼
27日
被災者登録検索システム(IAAシステム)を県トップページおよびパソコン版ポータルにリンク(安否確認用)
28日
「地震関連情報」のパソコン版英語サイト開設
29日
IAAシステムの携帯サイト対応開始
11月10日
産業面での風評被害防止を目的としたサブサイト開設
17日
「地震関連情報」のパソコン版ポータルサイトのレイアウト 変更
~現在
ポータルサイトの運用継続中

 サイトのレイアウトは、途中で一度変更しています。被災から時間がたつにつれ、安否情報より復興計画のような中長期な見通しなどのニーズが高くなったためです。また、災害の情報なのか復興の情報なのか、被災者向けの情報なのか支援者向けの情報なのか、分かりやすいように心掛けました。県としては、ほかの災害関連サイトの情報にもたどり着けるポータルサイトとしての役割を意識していました。

 携帯電話向けのサイトに関しては、すぐに電話できるよう電話番号のリンクを張っておき、相談窓口や照会先に電話できる形にしておきました。被災者が、携帯電話から「心のケアホットライン」や相談窓口に電話をかけやすいようにした点は、効果があったと思っています。

 課題としては、通常時では想定できないアクセス増への対応です。今回はYahoo!Japanに県の災害情報のサイトが紹介されたところ、アクセスが急増してページの表示が遅くなることもありました(10月27日にはパソコン向けWebサイトに約26万件のアクセスが殺到した)。日ごろから急激なアクセス増に対応できる環境を整備しておく必要があると思います(※注1)

――外国語対応はどうしていたのでしょうか。例えば、長岡市では民間団体の協力を得て4カ国語で情報を提供していました(※注2)

市川彰氏
新潟県総合政策部
情報政策課
電子県庁推進班政策企画員
市川彰氏
関口善秀氏
新潟県総合政策部
国際交流課企画調整係長
関口善秀氏

市川(新潟県) 被災した外国人が非常に多かったので、県の国際交流課が全面協力して、外国人向けに英語の災害情報のWebサイトを立ち上げました。10月28日ごろから開始して、11月6日には1日に516件のアクセスがありました。

関口善秀(新潟県総合政策部国際交流課企画調整係長)  県では、英訳できる担当者が3人いたので、英語での情報発信はできました。韓国語、中国語ができる担当者はそれぞれ1人いましたが、1人では訳し切れない量だったので、重要な部分だけ訳して掲載しました。想定していなかったタガログ語やポルトガル語などにはうまく対応できませんでした。

西方(小千谷市) 通常では外国人向けに、消防署への連絡の仕方などの情報をWebサイトに掲載しています。災害時については、外国人向けに情報発信はできませんでした。

西巻(柏崎市) 柏崎市では災害情報の外国語サイトの必要性は高かったと思います。大学が2校あるので留学生が多く住んでいるからです。しかし、予算の関係で通常時の外国語ページも用意できていません。今回の地震時に外国語サイトの設置を検討したのですが、日本語を直訳しただけでは、外国人の方に正確に情報が伝わらないのではないかという懸念があり、外国語による災害情報のページは作りませんでした。

(※注1)県内の関連サイトは軒並みアクセスが集中した。十日町とおかまち市ではアクセスが集中したため一時的にデータをアップロードしにくい状態になったという。
(※注2)長岡市では英語、ポルトガル語、タガログ語、中国語で基本情報を提供した。横浜市国際交流協会が詳細情報(「長岡市地震情報」のページ)を英語、ポルトガル語、中国語に翻訳し、同協会のサイトで公開し、この詳細情報ページへは長岡市のサイトからリンクを張った。
(※注3)小千谷市のサイトから、IAAアライアンスが運営する被災者登録検索システム「IAAシステム」にリンクを張った。「早い段階で新潟県からIAAシステムの情報は庁内に来てはいたのですが、被災直後の混乱もあり、この情報がなかなか私にまで伝わって来なかった」(小千谷市の西方氏)という。