日立総合計画研究所・編

 レガシーとは、「遺産」や「遺物」を意味する言葉です。「レガシー・システム」とは、メインフレーム(汎用機などとも呼ばれる大型コンピュータ)を使った旧式の大規模システムを意味します。一般的に見て、レガシー・システムは信頼性/安定性に優れ、メーカーの手厚いサポートが受けられるなどの利点があり、政府/地方自治体の基幹システムにおいて数多く採用されてきました。

 しかし、OS(基本ソフト)がメーカーの独自製品であるため、多くのメーカーが共用しているWindowsやLinuxなどを使用した「オープン・システム」に比べてコストが高いという欠点もあります。また、レガシー・システムは中身を詳しく知っている開発元のメーカーしか扱えないために、システム開発を受注したメーカーが稼働後の保守やプログラム変更も長期間に渡って独占的に請け負うケースが多いのです。その際に、随意契約(入札を行わず、政府/地方自治体の担当者が任意に選定したメーカーと締結する契約)という契約形態がとられ、競争原理が十分働かない点も問題として指摘されています。

 自由民主党の「e-Japan重点計画特命委員会」が2002年秋にレガシー・システムに関する調査を実施した結果、年間10億円以上の経費を要する中央省庁の情報システムのうち、予算全体の約8割がレガシー・システムに支出されていたことが判明しています。同委員会は2003年3月に各省庁のレガシー・システムの見直しを求める「レガシーシステム改革指針」を発表しました。これに応える形で、政府は2003年7月に「レガシーシステム見直しのための行動計画(アクションプログラム)」を盛り込んだ電子政府構築計画を発表しました。

■地方自治体のレガシー・システム見直しも提言

 前述の電子政府構築計画は2004年6月に一部改定され、レガシー・システムについては、システム刷新の際に投資対効果を明確化するとともに、オープン・システム化、データ通信サービス(完成したレガシー・システムをシステム・インテグレーターが所有し、政府/地方自治体にシステム利用料を請求する一種のアウトソーシング契約)の契約解除、競争入札への移行などを検討することが決定しています。レガシー・システムの見直しによって、既存のシステムの運用/保守に費やされてきたIT予算を、より戦略的なIT投資に回すことが可能になることが期待されます。

 地方自治体に関しても、レガシー・システムのオープン・システム化によってコストを削減し、情報システム改革の財源に当てるよう、総務省が提言しています。また、総務省は2004年4月27日に設置した「電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会」で、地方自治団体が有するレガシー・システムの移行モデル作成を課題の一つとして取り上げ、調査研究を行うことを計画しています。既存レガシー・システムと電子申請システムや統合連携システムなどをつなぐ移行モデルを開発・実証する予定です。平成16年度には同調査研究に対し、5億2000万円の予算を投じます。

 ただし、一概にオープン・システムに移行すれば良いというわけではありません。オープン・システムの性能が向上しているとはいえ、政府/地方自治体のシステムには高い信頼性/安定性が求められ、オープン・システムでは対応できないシステムも数多く存在します。米国でも基幹システムはレガシー・システムでの構築/運用が主体です。また、オープン・システムで使われるソフトウエアやOSは広く流通しているので中身が研究され、クラッカーやコンピュータ・ウイルスの攻撃対象になりやすいという欠点もあります。

 重要なことは、政府/地方自治体がレガシー・システムとオープン・システムのメリット/デメリットをよく把握した上で、システムに求められる性能、セキュリティ、コスト、効率性のバランスを十分に検討し、最適なシステムを選択することです。そのためにも、政府/地方自治体が技術力を向上させ、システムを見る目を養うことが不可欠といえるでしょう。