日立総合計画研究所・編

 IT戦略本部とは、正式名称を「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」といい、内閣に設置されています。日本のIT政策の舵取りや具体化に中心的な役割を担う組織です。2000年11月に成立、2001年1月に施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」に基づいて、2001年1月にIT戦略本部は、発足しました。

 IT基本法は、国民がITの恩恵を享受できる社会の実現に向けて必要な施策を迅速かつ重点的に実施することを目的に制定された法律です。この法律の中で、施策を迅速かつ重点的に推進するために、

  1. 内閣にIT戦略本部を設置すること
  2. 官民の総力を結集する組織とすること、そのために
  3. 内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚および民間有識者を部員とすること

などが定められました。これに従い、民間部門から企業の経営幹部(石原邦夫 東京海上火災保険株式会社 代表取締役社長、出井伸之 ソニー株式会社 取締役代表執行役会長兼グループCEOなど)、大学の研究者(村井純 慶應義塾大学環境情報学部教授)などが参加しているほか、地方自治体の首長(沢田秀男 横須賀市長)も参加しています。

 IT戦略本部の役割は、

  1. 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する重点計画を作成し、およびその実施を推進すること、
  2. そのほか、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策で重要なものの企画に関して審議し、およびその施策の実施を推進すること、

とされています。IT戦略本部は、2001年、日本の国としてのはじめてのIT戦略である「e-Japan戦略」を策定しました。また、2003年7月には、「e-Japan戦略」に続く、次期IT戦略として「e-Japan戦略II」を策定しています。これは、2001年に策定された「e-Japan戦略」がインフラ整備に重点を置く内容であったのに対し、それ以降の社会や技術の変化を踏まえて、ITの利活用に主眼を置いた新しいIT戦略として策定されたものです。

 これらの戦略を各府省が実施する具体的施策に落とし込むのが、「重点計画」であり、IT戦略本部は2001年以降、毎年「重点計画」を策定してきました。さらに、2004年2月には「e-Japan戦略II加速化パッケージ」を策定するなど、通常の「重点計画」以外にも、目標達成に向けて必要な施策を加速させる取り組みを策定しています。「レガシーシステム見直しのための行動計画(アクションプログラム)」を盛り込んだ電子政府構築計画を作り上げた、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議/CIO補佐官等連絡会議もIT戦略本部の下部組織です。

 IT戦略本部は、これらの施策を通じて、日本のIT戦略の方向付けと取り組みの具体化を推進してきました。現在、IT戦略本部には、政府の取り組みを方向付けるだけでなく、政府の取り組みの内容や効果を評価し、必要な場合には改善を提言していこうという流れが生まれています。IT戦略本部は必要に応じて専門の調査を行うための「専門調査会」を設置することが認められていますが、2003年8月に、IT戦略に関する政府の取組状況の評価等を行うため、評価専門調査会を設置しました。

 現在、評価専門調査会を中心に、IT戦略における「計画(Plan)を実行(Do)し、評価(Check)して改善(Act)に結びつけ、その結果を次の計画に活かすプロセス」いわゆるPDCAサイクル確立に向けた検討が進められています。このように、IT戦略本部は、日本のIT戦略の方向付けや具体化を行うだけでなく、それに対する政府の取り組み状況を評価する機能までを担うことで、IT戦略のより効果的な実施に向けて存在感を増しています。