日立総合計画研究所・編

 GIS(Geographic Information System:地理情報システム)は、従来、紙の地図で表現されていた道路、建物などの地図情報をデジタル化してコンピュータ上で表示するもので、わが国の行政部門でも、利用が広がっています。行政部門が整備するGISでもともと利用者として想定されていたのは、行政部門の職員です。しかし、行政部門が保有する地理情報は住民や企業にとっても有用なものであることが認識され、これらを行政部門外にも提供し、地域の活性化に役立てようという動きが出ています。大きくは「企業活動の支援」と「地域活性化への住民の参画推進」の二つが挙げられます。

 岡山県岡山市など都市計画の情報や、神奈川県横須賀市のように道路工事の情報など、企業の事業活動を支援する情報をインターネットを通じてGISで公開する地方自治体が増えています。これによって、企業は事業活動に必要な最新の地理情報を手軽に確認できるようになってきました。

 米国サンフランシスコ市では、さらに積極的なサービスを提供しています。SF プロスペクター(SF Prospector)というサービスで、2003年から開始しました。このサービスは、サンフランシスコ市で事業を行おうとする企業が、事業に適した不動産を見つけ、事業を始めることを支援しようとするものです。必要な土地や建物の広さ、地域、賃貸か購入か、税制面での優遇措置の有無などの条件を入力すれば、サンフランシスコ市の中で条件に当てはまる候補物件が地図上に表示されます。さらに、物件についての問い合わせ先、周辺地域の人口構成や所得、住民の支出状況、産業の集積状況などを地図に表示し、検討することができます。従来であれば、企業が何日もかかって行った調査が数時間のうちに可能になったと言われています。サンフランシスコ市では、1990年代にはわずか1%に過ぎなかった商業用地/商業用建物の空室率が、ITバブル崩壊後24%にまで上昇するなど、地域経済が停滞したことが本サービス開始のきっかけとなりました。

 もう一つの「地域活性化への住民の参画推進」については、特にわが国では、街づくりに対する住民の関心の高まりとともに、街づくりへの参画の道具としてGISを活用しようという機運が高まっています。三重県では、「eデモ+MAP」というコーナーをホームページ上に開設しています。このコーナーでは電子会議室で発言した情報を地図上にリンクして表示することができます。これを使って、例えば、県内のバリアフリー情報などを分かりやすく発信できます。

 米国では、GISにシミュレーションなどの技術を組み合わせたソフトウェアが住民の参画推進に使われ、効果を上げています。現在、米国サンフランシスコ湾岸地域では、持続可能な発展に向けて、20年間の地域発展計画を策定し実施する「湾岸地域スマートグロース戦略/地域居住性向上プロジェクト(Smart Growth Strategy/Regional Livability Footprint Project)」が実施されています。このプロジェクトでは、今後予想されている人口増に対応しながら、自然環境保護、経済発展、生活の質の改善を図るための、地域発展戦略について1999年から議論を開始し2002年に戦略を決定しました。その間の議論には、複数の地方政府、環境保護などの関連団体、2000人以上の住民が参加しました。このように多数の参加者の計画案についての理解と参画を促進するため、PLACE3S(PLAnning for Community Energy, Economic and Environmental Sustainability)という、GISとシミュレーションを組み合わせたソフトウエアが活用されました。このソフトウエアで、地域発展計画案をシミュレーションし、立体的映像(3D)で表示し、計画案の検討を進めたということです。

 以上のように、GISによって、さまざまな情報を視覚的に共有することによって、業務を効率化したりコミュニケーションの質を高めたりすることができます。特に、行政が保有する貴重な地理情報を住民や企業に公開することで、地域の共有資産として、地域活性化に活用できる可能性も広がっています。一方で、行政が整備した情報を、どこまで無料で提供し、どこから有料とするのかなど費用負担の問題や、提供する情報の正確さをいかに確保していくかなどの課題について検討を進めることが、今後の課題となると考えられます。