日立総合計画研究所・編

 ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)は、1980年代に米ハーバード大学のロバート・キャプラン教授が提唱した管理会計手法です。製品やサービスを提供するための間接コストを活動単位に分割して、個々の活動ごとの基準を用いてコストを算出し、原価計算を行う手法です。さらに、ABCから得られるコスト分析を基に、業務効率を改善していく経営手法をABM(Activity Based Management:活動基準原価管理)と呼びます。当初は企業のコスト分析手法として利用されていましたが、厳しい財政状況の中で行政サービスを効果的に実施するには、人材/予算という経営資源を効率よく配置することが重要になることから、官公庁/地方自治体への導入が進んでいます。

 行政サービスのコストは、事業予算のように特定のサービスと結びつけることができるコスト以外にも、人件費、システム費、光熱費など、特定のサービスと結びつけることができないコストが多く存在するため、サービスの総コストを把握することが困難になっています。ABCを導入することで、行政サービスのコストをより正確に把握できるようになり、業務効率改善のベースとなる情報を入手することが可能になります。

 では、具体例を挙げて、従来の会計手法との違いを見てみましょう。ある地方自治体内で二つのサービスを提供しており、そのコストを比較するという状況を想定します。このとき、コールセンターの人件費が2000万円だったとしましょう。従来の原価計算手法では、コールセンターの人件費全体を代表的なコスト・ドライバー(作業時間や機械稼働時間など、サービス提供のための活動量を定量的に表したもの)のみを用いて便宜的に配分します。例えば、電話対応の時間をコスト・ドライバーとして用いると、コールセンターの人件費は下図のように配分されます。

■図1.従来の会計手法を用いたコスト計算
従来の会計手法を用いたコスト計算

 一方、ABCでは以下のようになります。引き続き前述のケースを用いると、

ステップ(1) コールセンターの業務を「電話対応」、「データ処理」、「資料作成」など、より細かい活動単位(内容)に分割する。

ステップ(2) 各活動に要した作業時間や人員数などを基に、コールセンターの人件費(今回の例:2000万円)を活動単位ごとに配分する。

ステップ(3) 各活動単位ごとに、コスト・ドライバー(今回の例:作業時間や処理件数など)を決定し、サービスAおよびBのコスト・ドライバーを集計する。

ステップ(4) それぞれの活動単位での人件費を、サービスAおよびBのコスト・ドライバーの割合に基づいて、サービスAとBに配分する。

■図2.ABCを用いたコスト計算
ABCを用いたコスト計算

 ここで、両者の結果を比較してみましょう。従来の会計手法を用いた場合では、「電話対応」の時間だけが基準となったため、「電話対応」の時間が長いサービスAの方が高コストであると算出されてしまいます。しかし、ABCを用いてより正確にコストを算出した結果、「データ処理」や「資料作成」に経営資源が費やされているサービスBの方が、実は高コストであったことが判明します。

 ABCはコストを把握するためには有効な手法ですが、効率的なサービス提供を実現するには、その結果を分析し、いかに改善につなげるかが重要となります。千葉県市川市では、2001年度に障害者支援課でABCを試行的に導入し、その後、市民課など24の課に適用を広げ、職員の仕事量を大幅に削減する効果が得られました。これは単にABCを用いたからではなく、その分析結果に基づいて、市民サービスに直結する業務により多くの職員を配置し、それ以外の業務には業務委託を活用するなどの改善を行ったことで実現したものです。つまりABCを基にABMを実施することで初めて効果が現れるのです。今後、官公庁/地方自治体もこのような新しい民間経営手法を積極的に活用し、効率の良い経営を行うことが求められるでしょう。