日立総合計画研究所・編

 2004年の米大統領選では、オフショアリング(offshoring)という言葉が使われたびたび話題となりました。米国では、システム開発などのIT関連業務を外部企業に委託する際、コストが安いという理由でインドや中国のIT企業を選ぶ事例がここ数年で増えています。このように外国にある企業に業務を委託することをオフショアリングと言います。オフショアリングは、英語でオフショア「沖合」という言葉に、「海外の、国外での」という意味があることから用いられています。

 1990年代以降、コスト削減を目的に業務をアウトソーシングする企業や行政部門が増えていますが、特に、米GE(General Electric: ゼネラル・エレクトリック社)に代表される欧米の民間企業は、インドや中国など、人件費が安価な国々の企業に対して、データ入力やプログラミング、アプリケーション開発などのIT関連業務をオフショアリングしてコスト削減を実現しています。また、米国では、インド人の使用言語が英語であることから、コールセンターなど、顧客と直接接する業務もオフショアリングする企業も少なくありません。

 民間企業の成功を受けて、1990年代末には米国を中心として地方政府などでもIT業務のオフショアリングが図られました。米国の行政部門は財政赤字を抱えてコストを削減することが必要となっており、オフショアリングが魅力的な選択肢となっているからです。しかし、近年、インディアナ州、ミシガン州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ニュージャージー州などで、州政府の業務のアウトソーシングおいてオフショアリングを禁止する規制を相次いで導入しています。

 その最大の理由は雇用問題です。オフショアリング反対派の主張は、(1)オフショアリングは州民の税金が外国の労働者の賃金となり流出している、(2)外国に業務を発注することが州民の雇用を奪っている、というものです。2001年のITバブル崩壊以降、米国の雇用情勢が好転しない中で、オフショアリングに注目が集まっているという側面があります。しかし一方で、「オフショアリングと同じ水準の金額で同等の成果を出す企業や労働者が米国内に存在しない」という、行政府のIT関連業務を請け負う受注側(システム・ベンダー)の反論もあります。

 実例として、ニュージャージー州では、2004年9月の知事令で、オフショアリング規制を導入しました。規制では、州政府の調達に応札する企業に対し、どの国で応札企業が業務を行うか開示を義務付けるとともに、下請けに出す場合も同様に、下請け企業が業務を遂行する国の開示を義務付けています。また、オフショアリングの適用には厳しい条件を設けています。

 さらに米国では、雇用問題に加えて行政部門内の情報の流出も懸念されています。とりわけ、行政部門が保有する個人情報が漏えいする可能性があるからです。具体的には、各国ごとに社会制度や法体系などが異なるため、外国企業が情報を米国内と同じ条件で管理し、問題が生じた場合に対応するとは限らないことが懸念事項として挙げられます。日本では、現在のところは自治体のIT関連業務のオフショアリングは大きな問題とはなっていません。しかし、今後地方財政がさらにひっ迫し、住民によるコスト削減要求が高まることが予想されます。さらなる業務の効率化が推進される中で、オフショアリングが問題となるかも知れません。