■コスト試算に甘さ 見込みより多かった赤字額

 財政面では誤算が生じた。試算では、運行に必要な経費はざっと2354万円。利用料収入を差し引いて、財政支出は2000万円程度と見込んでいた。しかし、実際には、3700万円を超す支出となってしまった(表参照)

※1 歳入の「利用料」は巡回バス200円・デマンド交通サービス300円の利用料収入、「団体使用料」は町内の各種団体がバスを借り切って移動に使うときに徴収する利用料。
※2 歳出の「借上料」は町内の各種団体がバスを借り切って移動に使うときに町が運行を委託しているバス会社に支払う料金、「負担金」は「石川県生活バス路線維持対策費」や通学定期代金補助の町負担分、「賃金」は電話受付業務に当たるオペレーターへの賃金。「その他」は「印刷費」や「消耗品費」など。

 それまであった「福祉バス」など3本の無料運行の“政策バス”は、2000年、2 0 0 1 年度共に、年間コストは約2700万円だった。つまり、新しい交通体系に切り替えたほうが、経費は減るはずだったのだ。

 見込み違いの大きな原因は、巡回バスの委託料が検討段階の試算に比べて大きく増えたことだ。試算では、巡回バスの運行委託に掛かる費用を300万円強と見込んでいた。これに対して、2003年度の実績では、1400万円を超える金額を必要とした。

 試算の金額は、町がシルバー人材センターを通じて“政策バス”の運転手を雇い入れていた費用と同水準で巡回バスのコスト計算をしたものだ。しかし、そもそもプロのバス運転手とシルバー人材センター経由の人材とでは、人件費は大きく差が出る。違ってしかるべき金額を同等に扱っていたわけで、町の精査にも甘さがあったと言わざるを得ない。

中橋氏
石川県志雄町企画財政課の中橋理樹氏

 そうは言っても、“地域の足”として確かに機能しているだけに、総合的な評価は厄介だ。

 「交通政策は事業そのものの収支以外にも、地域のなかで果たす役割も含めて評価すべきと考えている。病院や商店の集客に貢献しているし、外出を容易にしている点で、高齢者の健康増進にもつながる。自治体の福祉施策の一つとしてみれば、必ずしも『赤字=廃止』とはならないのではないか」と、志雄町企画財政課でデマンド交通サービスを担当する中橋理樹氏は言う。

■合併を機に地域拡大を検討 利用促進を進める好機に

 確かに、デマンド交通サービスは黒字事業ではない。しかし、忘れてはならないのは、“地域の足”を確保するのに余儀なくされている「赤字」を、「垂れ流し」の状態にしない努力や工夫だろう。

 例えば、デマンド交通システムが蓄積している利用データを活用するのも、その一つと言える。現在、志雄町では、まだまだ運行データを活用しきれているとは言えない状況だ。利用率の低い「地区」や「時間帯」で、利用率を上げる手立てを考えたり、新しいサービスを導入して利用促進を図ったりするときに、データはヒントを与えてくれる。

 志雄町は来年3月に隣の押水町と合併する方向で協議を重ねている。そこでは当然、デマンド交通サービスについての議論があり、押水町でも取り入れる方向だ。しかも、押水町でただ一つのタクシー会社を経営するのは、志雄町の敷浪タクシーの経営者の親族だ。連携は図りやすい。

 運行開始から2年、そして隣町と合併——。デマンド交通システムのさらなる活用に向けて見直しを図る好機が訪れる。