■乗車、降車の時刻と場所をデータとして蓄積
電話予約を受け付けて、走行中の車両に迎車を指示する業務を、どれだけ効率良く確実にこなせるか。これが、この交通システムの肝となる。
志雄町では、全国に先駆けてデマンド交通システムを取り入れた福島県小高町と同様の配車システムを導入した。CTIとGISを使い、受付センターと運転手が連絡を取り合うもので、システムを構築したのはNTT東日本だ。
町役場に直結する生涯学習センター内にある受付センター。 | オペレーターの待ち受け画面。左手には、利用者の登録情報や着信履歴などを、右手には、GISを用いた地図情報を表示。そこに、車両別の運行状況を一覧できるウインドウを重ねておく。 |
CTIとGISを使った配車システムといえば、タクシー会社の配車システムがまず思い浮かぶ。しかし、タクシー会社とデマンド交通システムでは、必要な条件は異なる。
デマンド交通システムでは、時刻表があり30分前までの予約が原則だ。タクシーのようにリアルタイムで車両の位置を把握しなくてよい。このため、タクシー会社のように、GPS(Global Positioning System)や専用無線を使った配車システムは必要ない。iモード対応カーナビで通信できれば十分だ(注1)。
一方で、デマンド交通システムの場合、将来の利用促進などの資料として、利用者の乗降データを蓄積する必要がある。タクシーは客の乗車場所の把握がまず第一だが、こちらのシステムでは利用者の降車場所や時刻のデータが重要になる。
電話予約の受付作業は簡単だ。CTIを活用しているため、登録会員の自宅からの電話であれば、事前登録した氏名、住所、電話番号といった基本情報や、その人がよく行く場所などのデータが即座に画面に現れる。キーボード操作は必要ない。
オペレーターから車両に受付予約情報を送るのもワンクリック。車両に搭載するiモード対応カーナビに、携帯電話を通じてメールで送信するだけだ。ただし、電話の相手が未登録のときは、『非会員』用の画面に切り替えてデータを手入力する。
この仕組みが特徴的なのは、すべてを自動化するのではなく、人とシステムとが補完し合いながら機能する点だ。例えば、車両の運行ルートを決めるのは運転手の役割だ。オペレーターからの受付予約情報を基にどのルートが最も効率が良いかを考える。
定員を超える予約があったときは、オペレーターが調整する。「地域のバランスを見て、経路を工夫して融通が利きそうであれば、定員を超えても、情報を送信して、あとは運転手さんに任せます。でも、そうでないときは、次の便に回ってもらいます」(志雄町でオペレーターを務める山本外代美さん)。
現実にそうした運行ができるのは、オペレーターも運転手も地元の人間だから、と言えよう。
■町営の各種無料バスも廃止 新交通体系を構築
志雄町でデマンド交通サービスを始めたのは、2003年3月。1年半ほど前だ。バス会社が赤字路線を廃止するのを機に、町内の交通体系を見直した末、路線バスと同じバス会社に運行業務を委託する巡回バスと共に、デマンド交通サービスの採用を決めた。
目指していたのは、次のような方向性だった。
─町内の全集落をカバーする
─朝から夕方までのあらゆる時間帯で運行を「1時間に1本」に近づける
─JRへの乗り継ぎをよくすると共に、「金沢行き」「羽咋行き」の高速バスを運行する
─スクールバス、福祉バス、リハビリバスの運行を一括管理する
─町で保有するバス車両の有効活用を図る
─住民の生活行動と連携したデマンド運行を図る
─バス停留所間でなく、ドア・ツー・ドアで運行する
検討の結果、新しい“地域の足”として、デマンド交通システムに白羽の矢が立った。
同時に巡回バスも必要としたのは、輸送力の問題からだった。町内にある小学校2校のうち志雄小学校は今でも100人を超える児童がバス通学をしている。民間の路線バスが通学用にも使われていた系統二つを廃止する考えだったことから、“通学の足”を確保する必要があった。
利用状況はどうか——。右のグラフで示したように、デマンド交通サービスの利用者数は今年に入ってからずっと、1日40人を下回る線で推移している(巡回バスの利用者も加えると、1日60人前後)。
検討段階では福島県小高町の実績から、1日当たりの利用者を高齢者の3%と見込んで、「1日53人程度」とはじいていた。利用者数の試算はデマンド交通サービスと巡回バスを合わせた数字なので、利用者数については、当初の目標はクリアしたと言える。なお、この数値には通学児童は含めていない。
■巡回バス&デマンド交通サービス利用者数の推移