・北海道による状況報告
「北海道電子自治体プラットフォーム構想について」

北海道 総合企画部 IT推進室長
石川久紀 氏

石川久紀 氏
 

石川久紀 氏

北海道の石川久紀氏は、北海道が進めている統合連携システム基盤「HARP」(Harmonized Applications Relational Platform)構想を紹介した。「低コストかつハイパフォーマンス、多様性を重視しており、自治体におけるシステム基盤のスタンダードを目指したい」との意気込みを語った。さらに「電子自治体化を単なる情報システムの整理ととらえるのではなく、地域経営を支える戦略とすべきだ」との考えを示した。HARP構想は「ベンダーからの提案でスタートしたのではなく、これからの方向性を自治体内で議論した結果としてスタートしたもの」(石川氏)であり、大手だけでなく地場のベンダーにも意見を聞きながら実現に向けて努力しているところだという。

その上で石川氏は、北海道の電子自治体システムの戦略における3点の目標を示した。
  1. 自治体主導のシステムを構築し、ベンダー依存から脱却する
  2. サービス、業務のハイパフォーマンス化を実現する
  3. 他自治体との適正な競争により多様性を確保し、さらに協働(知恵と資源の共有化)を同時に実現する
この3つの目標を達成するための手段として「共同アウトソーシング」が有効だと石川氏は説明した。共同アウトソーシングを図る理由について、個々の自治体がそれぞれのシステムを開発・運営をするのは人的/財政的に見ても困難であることを挙げた。さらに、電子申請/文書管理/電子調達…と複数のシステム構築を進めていくと、重複投資が残存してしまう点を強調した。また、従来型のシステム構築手法では、中小IT企業の参入機会が限定されてしまうという実情にも言及した。

 石川氏は、電子自治体化や地域情報化の先進度が、地域の魅力の重要な要素となっていると述べた。例えば、住民の移住や企業の誘致などに影響を与えるとした。加えて、人口が広範囲に分散しており民間主導ではなかなか地域の情報化が進まないというい北海道の事情を示した。自治体が率先して電子化に取り組み、IT関連産業をはじめとする新需要を創出して地域経済を活性化する必要があると強調した。

 そこで、将来にわたって効果的で効率的に推進可能なシステム構築手法への転換が必要であり、そのためには

  • 作らない(自ら作るのではなく、すでにあるものを使う)
  • 持たない(複製せずネットワーク経由で利用する)
  • という2つの発想の転換の必要性を提唱した。HARPは、この「作らない・持たない」を実現するために「業務ごとの独自機能」と「各システムに共通の基盤機能」に分離し、  
    • プラットフォームを共用
    • 既存資産をできるだけ活用し、個別に構築する部分を最小化
    • ネットワーク経由で利用
    しようという構想だ。

     
     

    出典:北海道



     
    出典:北海道




     HARP構想は、
    1. 業務機能部分(個別手続層:個別業務に係る様式やワークフロー)
    2. 業務機能部分(業務システム層:個別様式に依存しない汎用業務機能)
    3. 共通機能部分(コントローラ層:モジュール関連系機能)
    4. 共通機能部分(共通サービス層:業務システムに依存しない共通的機能)
    の4段階にシステムを階層化し、(3)コントローラ層のみが全業務に共通とし、それ以外の3階層は業務ごとに細分化/部品化しているのが特徴。そしてiDC(インターネット・データセンター)上に全システムを置き、自治体はLGWAN経由で、住民/企業はインターネット経由で利用する方式であることを説明した。

     
     

    出典:北海道



     
    出典:北海道

     コントローラ層は、新規業務システムと既存業務システム、共通サービスなどを結びつける扇の要の役割を果たすものである。各種OSや開発言語、データ連携方式の違いを吸収する。それ以外の階層は、ソフトウエアをモジュール(機能部品)化して構成する構造となっている。
    • 自立性(モジュールの独立性、信頼性が高い。他のモジュールとの結合度が低く悪影響が及びにくいこと)
    • 協調性(モジュールのインタフェースが公開され、様々なベンダーの仕様に対応)
    • 分散性(ネットワーク上に分散配置されたモジュールを遠隔からでも利用できる)
    という3点を基本理念を基に考えられた結果である。

    ■他団体でのHARPの利用や運用事業体の設立も

    続いてHARP導入の効果を説明。コントローラの下位階層にあるモジュールを活用するため、業務機能部分のみを新規構築・導入するシステムであることから、開発サイド(=北海道)にとっての以下の3つのメリットがあるという。
     
    1. 重複投資の回避・高品質な機能提供が可能
    2. 開発対象機能が限定されるため、スピーディーに構築可能
    3. 高付加価値のある行政サービスが早期提供可能
      さらに他の都府県にとっては、LGWAN─ASPの形で北海道が提供するHARPをそのまま活用することも、自前のサーバーに移植して独自の機能を追加して使用することもできるという。選択の幅がある点と、基本的に業務システムの保有が不要であることをメリットとして挙げた。

     また、個々のモジュールの規模は小さいため、限られた分野で優秀な技術を持っていれば中小企業でも参入しやすくなり、地元企業の調達参画機会が拡大し、地域経済の活性化が期待できる点にも言及した。

     北海道では、HARP構想の実現のための第1段階として、運営事業体を平成16年度に設立する。運営事業体は北海道と民間企業が出資し、HARPや各種アプリケーションの構築だけでなく、自治体向けのコンサルティングや道内IT企業サポートなどの事業を展開してゆく。道外の自治体からはサービス提供に対する利用料を収入とする計画である。


    ・富山県による状況報告
    「富山・石川・福井・京都4府県による共同アウトソーシング・システム連携事業の進捗状況について」

    富山県 経営企画部 情報政策課 課長
    寺林一朗 氏

    寺林一朗 氏
      寺林一朗 氏
       富山県の寺林一朗氏は冒頭で、富山と石川、福井、京都の連携実証事業の概略を説明した。石川県の「電子申請受付システム」と福井県の「ワークフロー管理システム」、京都府の「文書管理システム」を、富山県の「統合連携システム(データ交換システム)」を用いてシステム間連携を実現する。各府県のシステムの役割を確認した。

     
    出典:富山県


     ●富山県 統合連携システム
       
    1. システム間連携(データ連携)
    2. データ形式変換
      ●石川県 電子申請受付システム
       
    1. 申請者へのナビゲーション
    2. 申請、届出の受付と担当者への振り分けなど
      ●福井県 ワークフロー管理システム
       
    1. 業務の進行状況管理(ステータス管理)
    2. 職員側が次にすべき処理の業務支援
      ●京都府 文書管理システム
       
    1. 文書の原本保存
    2. 電子決裁
      富山県の統合連携システムは、申請者がインターネットを通じて送信したデータを、石川県の「電子申請汎用受付システム」が受け付け、LGWAN経由で、市町村が個別に利用しているバックオフィス(基幹業務システム)のデータ形式に変換して連携させるものと説明した。

     
    出典:富山県


     石川県の電子申請受付システムは、総務省の基本仕様(「地方公共団体における申請・届出等手続に関する汎用受付システムの基本仕様」)に準拠したものをベースとし、さらに音声ブラウザ対応や、ユーザーのポータル機能を重視している点を特徴として挙げた。

     福井県のワークフロー管理システムは、申請到達から交付までの状況を、経過段階ごとに管理し、職員の画面上にはワークフローに従って、操作可能なボタンが表示される仕組みである。

     京都府の文書管理システム(業務進行支援システム)は、文書の発生から廃棄まで一元管理できる「文書管理機能文書情報などの「検索機能」などの特徴を紹介した。

     次に寺林氏は、この4府県のシステムの連携実証実験を行うにあたって課題として発生した「実証実験の環境をどのように整えるか」という点について報告した。

     具体的には、第1案としてLGWANを介して4システムを連携させることを起案したが、現状では送信先のIPアドレスを特定できないため、非現実的として断念した。第2案として、4システムそれぞれにデータ交換端末を接続し、順次送受信する方法を想定したが、これではリアルタイムでの連携確認が取れないことから断念。第3案として、インターネット上で各システムを連携させることを考えたが、庁内LANで設定しているサーバーのは困難との判断で、これも断念。最終的に、連携実証用のLAN環境を構築する「インハウス方式」を用いることで、実際の連携状況の確認を取るこになったという。

     

    出典:富山県


     

    出典:富山県


     実証実験では「住民票写し交付申請」をベースに、モデル手続きを設定。1カ所に4府県のシステムを持ち寄りネットワークを構築し、4府県連携業務フローに基づいて、申請から通知書の取得までの一連の申請・届出業務が可能であるかを実験した。

     その結果、今後の実施に向けての課題として、
    1. LGWAN-ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の問題点
    2. システムの機能の切り分け
    という2点を挙げた。

     前者は、共同システム側から市町村側へデータを渡す際のIPアドレス特定が問題となる点を指摘。これについては、サービス提供設備に、市町村側のサーバーに対するグローバルIPアドレスを割り振ることで対応可能ではないかという意見を述べた。

     後者については、「文書の施行」や「申請」という言葉は、団体によって範囲が異なることを例に、言葉の違いがあることを説明した。その延長線として団体により各システムの個別機能が重複していたり、あるいは必要な機能が存在しなかったりすることがあることをポイントとして挙げた。この点については機能のモジュール化(細分化)が必要であると訴えた。

     この2点の問題を解決するためにも、都道府県CIOフォーラムといった場で、LGWANの活用法や、各団体のシステム機能モジュール化などを考えていくことの重要性を示し、セッションを締めくくった。

    ・鳥取県による状況報告
    「統合連携システムの開発実証(中間報告)」

    鳥取県 総務部 行政経営推進課 課長補佐
    大西重任 氏

    大西重任 氏
     

    大西重任 氏

      鳥取県は、兵庫県や岡山県とともに共同アウトソーシングのシステム開発を行っている。鳥取県の大西重任氏は、まず統合連携システム開発実証の最終目標として、共同アウトソーシングセンターの利用を促進し、各市町村がセンターで提供するアプリケーションに順次移行していくことを挙げた。

     しかし、現実には市町村ごとに「人事給与システム」や「収納管理システム」などの個別業務システムが導入済みであるケースが多く、すべてを共同アウトソーシングセンター提供のアプリケーション・サービスに切り替えることは困難だ。そこで、鳥取県の「統合連携システム」は、市町村が個別業務システムには大きな改変を加えることなくデータ連携・統合を可能とする、標準的な共通フレームワークとして構築すると位置付けている。鳥取県のシステムは、既存システムを連携させるEAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション)という技術をベースにしている。

     
    出典:鳥取県

     また大西氏は、この共通フレームワークが備える機能には、
    1. 異種情報(データ)の連携と、異機種(マルチベンダー)を容易に連携できる汎用性/拡張性
    2. 大容量データや複数ファイルを一括送受信できるパフォーマンス
    3. データ送受信処理(トランザクション)の整合性
    4. 個人情報や業務データなど、機密性の高い情報に対するセキュリティ
    があるとした。

     「文字コード変換」「意味変換」「構造変換」といった業務データ変換もEAIソフトで処理できるが、共同アウトソーシングでの利用ではEAIシステムが巨大化/複雑化してしまう。そこで鳥取県では、EAIソフトはあくまでデータ連携の機能にとどめ、業務データの変換については、業務アプリケーション・サイドに「アダプタ」と呼ぶ業務データの変換機能を実装させると説明。鳥取県の共通フレームワークに準拠したアダプタにより、各業務アプリケーションを容易に接続できるようにすることで、拡張性を持たせることが可能になるとした。

     
    出典:鳥取県

     続いて大西氏は、セッションの前日(2月17日)に行った、鳥取県の統合連携システムを利用して兵庫、岡山、鳥取3県でのシステム連携実証の結果を報告した。入札参加資格審査請求書を兵庫県の電子申請受付システムで受け付け、鳥取県の統合連携システムを介し、岡山県の標準ワークフロー・システムで審査する実証を行ったところ、大筋では成功したと説明した。

     
    出典:鳥取県

     また3月上旬に予定されていた、鳥取県内におけるシステム連携実証も紹介した。
    1. 鳥取情報ハイウェイを経由して共同アウトソーシングセンターと市町村間のセキュリティ確保について
    2. 給与計算システムとのデータ交換
    3. 収納管理システムとのデータ交換
    などを実証するために、準備を進めていることを報告した。

     
    出典:鳥取県


    ・福岡県による状況報告
    「福岡県における統合連携システムについて」

    福岡県 企画振興部 高度情報政策課 企画主幹
    武内功 氏

    武内功 氏
      武内功 氏
      福岡県では電子県庁関連のシステム構築について、平成14年度中に共通基盤システムの基本計画を立て、15年度中に設計・開発を終え、この1月よりシステム稼動を開始している。

     福岡県の武内功氏は、現状の市町村の電子化における障壁として、
    • 財政面の制約(市町村の自主財源ではIT化・通信環境整備が困難)
    • 技術面での制約(セキュリティに関する問題には専門化のサポートが必要)
    • 人材面での制約(IT化などに必要な知識を持った人材確保が困難)
    を挙げた。その解決策として「市町村共同利用センター」を設置した。平成17年度より、ASPサービスの提供を目指すという方針も明らかにした。

     続いて武内氏は、福岡県における業務/システムの最適化手法(EA)への取り組みについて説明した。その中でまず、自治体のIT調達・開発・運用の問題点として、
    1. 業務や部署ごとに異なる情報システムの企画・管理
    2. システム内容の把握困難による、大手ベンダー依存体質
    3. 属人的な能力に依存した情報戦略立案
    の3点を挙げた。従来のシステムでは、一つ一つの業務システムが完結するように作られており、他のシステムとの連携はほとんど考慮されていなかったことを問題とした。

     

    出典:福岡県



     武内氏は「EAのメリットは、そのまま電子自治体のメリットになる」という考えを示し、EAによる「IT投資の合理化・効率化の実現「部分最適から全体最適へ「組織全体として業務/システムが進むべきプロセスを共有」といった点を具体的なメリットとして提示した。


     これらの点を踏まえ、福岡県は独自に策定したシステム共同利用の標準規定「電子自治体共通化技術標準」により課題の解決に取り組む。同標準にEAの考え方を取り込むために、設計標準や開発標準などの「標準化文書帳票開発ガイドや連携機能開発ガイドなどの「各種利用ガイドライン」を定めたことを説明した。これにより県内市町村や県外自治体との間でもシステムの相互利用が可能になるとし、アプリケーション・シェアの実現が見込めるとした。

     
    出典:福岡県


     
    出典:福岡県


     最後に武内氏は、今後の統合連携システム実証実験について言及した。民間企業のデータセンター上に福岡県の全体共通基盤システムと、広島県の業務基幹システム(文書管理/電子決済)、佐賀県の人事給与システム、熊本県の電子申請システムを統合した形で実証実験を行っていく方針だという。

    ・熊本県による状況報告
    「電子申請受付システムの概要」

    熊本県 企画振興部 情報企画課 情報企画監
    島田政次 氏

    島田政次 氏
    島田政次 氏
      島田政次氏はまず、電子申請システムの機能について説明。基本機能は、総務省の「地方公共団体における申請・届出など手続に関する汎用受付システムの基本仕様(第二版)」にすべて準拠したものを構築できる見通しだという。ここにシステム構築ベンダーより提案された各種機能から取捨選択し、
    1. ポータル機能(公的個人認証が不要なサービス用のID/パスワードも発行。さらにパスワード忘れ対策機能を追加)
    2. 受付機能(添付書類の別送機能、添付宛名印刷)
    3. 審査機能(資料未達、未納などの督促通知機能)
    4. 統計機能(申請状況サマリ表示、公文書発行サマリ表示)
    をプラスしたと報告した。

     

    出典:熊本県



     
    出典:熊本県

     続いて、熊本県のオープンソースの考え方についても説明。当初、電子申請システムの開発時には、ソースコードや著作権を熊本県に受け渡す範囲を、
    • 基本ソフト(OSなど)
    • 汎用ミドルソフト(Webサーバーやデータベース・ソフトなど)
    • 汎用パッケージソフト(電子帳票ソフトなど)
    • ライブラリ(認証機能などのソフト部品)の一部
      としていたが、実際に構築されたシステムでは、上記から汎用パッケージソフトが除かれた。パッケージソフト部分については、XMLの形式で連携を図ることで対応できると説明した。