文・清水惠子(中央青山監査法人 シニアマネージャ)

 EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)とは、業務とシステムの現状・未来図・移行計画の姿を、利用部門にも分かりやすいように示し、利用部門自らが必要な業務と情報を明確にすることができる手法である。

  EAは以下の4つの分類体系に整理されている。

  1. 政策・業務体系(BA)
  2. データ体系(DA)
  3. 適用処理体系(AA)
  4. 技術体系(TA)

EA の4体系
経済産業省:EA策定ガイドラインVer.1(03.12.26)より転載

 分類体系は、統一的な標準様式から構成されている。この標準様式は利用者とベンダーが共通の理解をするための設計図としての役割を果たすものであり、現状の政策・業務体系、データ体系、適用処理体系、技術体系を明確にする。さらに、青写真としての将来体系と現状の制約条件を考慮した移行計画を策定することになる。

 本連載では、これらについて、順次説明をしていくが、第1回目の今回は、まず日本の政府や自治体におけるEAへの取り組み状況を概観し、「なぜEAが必要なのか」について述べていきたい。

■72分野の業務・システムをEAに基づき「最適化」

 我が国の政府は、「業務・システム最適化計画」を推進し始めた。この計画は、政府全体の統一的な業務・システム管理手法としてEAを採用したものである。EA策定ガイドラインも既に発表されている。「業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)」(第2版2004年(平成16年)2月10日)である。

 EAガイドライン策定の目的は、各業務を担当する組織がバラバラに情報システムの整備を行う現状のシステム整備のあり方を見直すことにある。同時に、府省間及び府省内各組織間で整合的な業務の遂行及び情報システムの整備も進めている。

 政府は、電子政府構築計画(2003年7月17日の各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)において、業務・システムの最適化により予算効率の高い簡素な政府実現を主要目標の一つに置いた。これを受けて2004年2月10日、同連絡会議は、府省横断的に改革に取り組む業務・システム(21分野)及びその取り組みの中心となる担当府省を決定した。また、各府省において個別に取り組む業務・システム(51分野)についても報告している。

 これら72分野の業務・システムについては、EAに基づく上記「最適化計画」を2005 年度末までのできる限り早期に策定しする。こうしてEAを導入し、政府全体として、業務処理過程の重複等の徹底した排除、各府省共通業務・類似業務における共通システムの利用や業務・システムの一元化・集中化等による簡素化・合理化を図っていく。

■政府・自治体の全体最適と自治体・住民の部分最適

 政府は、 2004年2月6日に「e-Japan戦略II加速化パッケージ」を発表した。

 この中で、電子自治体については、「自治体ごとのシステム開発に伴う重複投資の回避及び円滑な相互接続・連携の実現」による効率的で低廉かつセキュリティの高い電子自治体を目指すとしてる。そして、この目標を達成するための方策として、業務改革、地方公共団体における事務の共通化、システムの標準化と共同アウトソーシング(外部委託)を実現することなどがうたわれている。EAの活用は、こうした施策を推進させるための統一的手法として活用できる。

 地方自治体のEAには、政府で推進しているEAとの整合性が求められる。国の電子政府構築計画と整合性の取れた電子自治体を効果的推進させるためだ。例えば、国と自治体で電子申請などの一貫した住民サービスの業務・システム体系を設計するためには、国の電子申請(21の府省横断的業務の一つとして選択されている)と自治体の電子申請受付(総務省の共同アウトソーシング事業などで都道府県が構築中)で整合性を取り、連携可能な形にする必要がある。

 政府・地方自治体が連携しての国全体の最適化を目指すだけでなく、EAには、地方自治体・住民の部分最適を果たすための設計図としての役割も期待されている。地方自治体の独立性を高め活性化するのためには、IT施策においても、地域の強み、独自性を効果的に付加する必要がある。そのためには、従来のようにベンダーの知見に頼ってシステムを構築するのではなく、自治体職員自らが、共通基盤のEAを基に、住民の参加を得て、住民の要請に答える自治体業務とシステム最適化の方向を示さなくてはならない。

 分かりやすい全体的な設計図を作り、そこから討議・調整・修正を繰り返し、順次段階的な取組みに合意することが住民の参画意識を高めるために重要ある。質の高い住民サービスは、そこから提供されるのである。

 地方自治体での電子自治体の取り組みとしては、住基ネット、LGWAN、公的個人認証の基盤整備が終了し、共同アウトソーシング(総合連携システム、電子申請受付システム、電子入札、電子調達、福祉等の住民サービス提供システム)のパイロットプロジュクトが本年度実施されている。これらのパイロットプロジェクトの成果/経験/知識をEAの標準的な枠組みを利用しパターン化/標準化して整理し、自治体内の関係者、自治体間で情報共有するために、Webベースの知識ポータルを作成すべきだろう。そうすれば、我が国の自治体全体の業務・システムの最適化を効果的に推進させることができると思われる。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

中央青山監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。