■ランキング上位も問題が山積

 例えばJISは、「各ページに適切なタイトルを付ける」ことを求めている。ページごとに適切なタイトルがあれば、利用者は各ページの内容を把握しやすくなる。タイトルは、お気に入り(ブックマーク)の登録や検索エンジンの表示結果にも使われるので、適切なタイトルの付与は広く使い勝手の向上に役立つ。ところが、これに対応していたのは、社会保険庁、文部科学省、宮内庁のみ。また、主要なコンテンツへのリンクをまとめた「グローバルナビゲーションバー」を、すべてのWebページの特定位置に設けていたのは、4省庁だけだった。

 JISが規定する、高齢者や障害者に対する配慮も欠けている。高齢者などに配慮して、Webブラウザーの設定で文字の大きさを変えられるように徹底しているWebサイトは6つ。社会保険庁、文部科学省、金融庁、国土交通省、気象庁のサイトには、色だけで情報を伝えるページがあった。こうした情報は、色覚障害者が理解しづらいほか、モノクロプリンターで印刷したときも識別できない。

 JISでは、視覚障害者がWebページの内容を「音声読み上げソフト」で把握するケースを想定して、意味のある画像には内容を説明する「代替テキスト」(alt属性)を付けることを求めている。だが、説明が必要な画像へのalt属性の付加を徹底できていたのは、警察庁のWebサイトのみだった。

 さらに、JISは、音声読み上げの支障になるため、「装飾目的で単語の途中に空白を入れてはならない」と定めている。ところが、宮内庁のトップページの一部は、「皇居」を、「皇」と「居」の間に空白を入れて記述。このため、音声読み上げソフトは、この部分を「こう、い」と読み上げてしまう。同様の問題は、宮内庁を含めて14のサイトにあった。

■少しの配置で改善できる

 アクセシビリティ対策の多くは、ちょっとした配慮で進められる。代替テキストや空白を入れた記述の問題などは、音声読み上げソフトを使えば、簡単に見つけて対策できる。実際、文部科学省では、Webページの制作を発注する際に音声読み上げソフトでの確認を要請している上に、「担当者が音声読み上げソフトを使って要所を確認している」(大臣官房総務課広報室企画係の吉嵜志保氏)という。

 国のサイトは、PDFを利用して情報を提供していることが多い。このとき、リンクに説明が全くなく、リンクをクリックするといきなりPDF文書を表示するページがある。

 例えば、経済産業省「美浜発電所3号機2次系配管破損事故について」というページ。このページの「美浜発電所3号機2次系配管破損事故に係る関西電力株式会社原子力発電所の安全点検停止について」という項目をクリックすると、いきなりPDF文書を表示する。

■PDF文書へのリンクに何の説明もないページの例(経済産業省「美浜発電所3号機2次系配管破損事故について」)

PDF文書へのリンクに何の説明もない経済産業省のページ例

 これでは、PDFを閲覧できないパソコンを使っている利用者やダイヤルアップ接続の利用者は、内容を把握するのが困難だ。この場合、アクセシビリティ対策としては、PDF文書と同等の情報を伝えるページを用意する必要がある。ただ、リンク先がPDF文書であることやPDF文書の容量を記述するだけでも、多くの利用者の使いやすさを改善できるはずだ。

 色使いに課題があるサイトもある。一例として金融庁の「金融サービス利用者コーナー」を見てみよう。ここでは「★(編集部注:赤い星印)は、最終更新日に更新された項目です。」という説明とともに、赤い星印でサイトの新着情報を示している。しかし、新着情報であることを星印の色だけで伝えているため、色覚障害者が理解しづらいほか、モノクロプリンターで印刷したときも識別できない。

■新着情報を色だけで示している例(金融庁「金融サービス利用者コーナー」)

色だけで情報を表している金融庁のページ例
※ 金融庁「金融サービス利用者コーナー」ページより、★(赤い星印)で新着情報を示した部分を切り出して示したもの。

 国のWebサイトで対策が進んでいないことには、いくつかの理由がある。1つは、意識の高い担当者が少ないという人的な問題だ。今回の結果について各省庁に確認したところ、JISが定める個々のアクセシビリティ対策について十分に理解していない担当者や、「前任者が作成したWebページについては分からない」と答える担当者が目立った。なかには、「人事異動で担当者が頻繁に変わるためノウハウを継承しにくい」という担当者もいた。

 社会保険庁のサイトがランキングのトップになった理由は、2004年7月のリニューアルで対策が進んだため。ところが、社会保険庁では、「担当した業者に対して、アクセシビリティ対策は指示していなかった」(総務課)という。業者の自主的な対策の結果、たまたま高得点になったというのが実態だ。

 中央省庁のように扱うコンテンツが膨大だと、ページが多く、アクセシビリティ対策の徹底が難しいという側面もある。確かに、こうしたWebサイトでグローバルナビゲーションバーなどの対策を徹底するには、サイトの大規模なリニューアルが必要。そのための予算を確保しないことには、対策が進まない。

 国のWebサイトでも、アクセシビリティ対策を組織的に進めようという動きは出ている。各省庁の情報統括責任者(CIO)の連絡会議は2004年3月以降、3回にわたりJISに従って各省庁のWebサイトを見直す方針を確認している。

 また、厚生労働省と国土交通省は2004年3月、Webページの内容の読み上げやページ内の文字の拡大ができる閲覧支援機能をサイトに追加。文部科学省は、アクセシビリティ対策などを推進するために、2005年度のWebサイト関連の予算を、前年度の1億2000万円から2億6000万円に増額するという。

 政府は現在、インターネットを利用した電子申請や情報提供の本格化を積極的に進めている。こうした取り組みは、多くの利用者がいてこそ意味を成す。そのためには、Webサイトのアクセシビリティ対策に留意して、情報化を推進する必要がある。