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IP電話の夜明け前(1)

初のIP電話製品の開発に悪戦苦闘(1995〜1996)


沖電気工業
IPソリューションカンパニーIPシステム企画開発本部
プロダクトマネージャ
薄葉 伸司

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IPネットワークに音声を流す−−。IP電話サービスが定着した現在では当たり前に思える話だが、10年前には常識はずれの取り組みだった。私が初めてIP電話関連製品の開発を手がけたのはちょうどそのころ。当時の苦労を振り返ってみたい。

写真1 NET&COM2004の沖電気のブース
写真1 NET&COM2004の沖電気のブース
展示ブースの半分を、加入電話以上の音質を実現したIP電話「e音IPフォン」の展示に割いていた。
 千葉市・幕張で2004年2月に開催された展示会「NET&COM2004」。沖電気工業はオフィス向けIP電話システム「e音IPフォン」を展示した(写真1)。

 e音IPフォンは、一般の加入電話を超える音質を狙った戦略商品である。「IP電話は音が悪い」というイメージを払しょくするだけでなく、さらにその上をいこうというのである。幸いにも来場者の多くの方が試聴し、音質の良さを評価してくださった。文字通り、れい明期からIP電話の開発に携わってきた私はこの状況を見て、感慨を覚えた。

 だが、現在に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。ブースで私は、10年ほど前に初めて開発したIP電話関連製品「VOICEHUB」のことを思い出していた。

「LAN上で音声を流せる機器を作れ」

 1995年8月のある日。私は上司であるS部長の前で、あっけにとられて立ちつくしていた。上司から「LAN上で音声を扱えるシステムを作れないか」と打診されたからだった。

 LANに音声を流す−−。個人向けにIP電話サービスが広まった現在では当然のように感じられる話かもしれない。だが、当時の私にとっては常識の枠を超える話だった。いや、私だけではないだろう。社内でも、いや世間でも常識を超越した発想だったはずだ。

 LANで音声を流すには、コンピュータ系の通信と同様に、音声をパケットという形態に変えなければならない。音声パケット技術は以前から研究されていたが、IP通信では相手にパケットが到達しないことがある。これが音の途切れにつながっていた。音声はデータのように、抜け落ちたパケットを再送するわけにはいかないからだ。さらに、以前から研究されていた音声パケットは、使用する帯域を節約するために実際に音声が出ている「有音部」のみを送る思想が根底にあった。ところが、この有音検出が難しく、会話の出だしが再生されない「頭切れ」の現象が発生し、音声パケットは実用化することが難しいと思われていた。

 このため、音声通信の品質を確保する仕組みを備えたATM(非同期転送モード)と呼ばれる別の技術が今後の主流になると考えられていた。ATMは、音声などのデータを固定長のパケットに変換して送る方式である。ハードウエアによる通信処理を可能にし、パケットの損失や遅延時間を極力小さくしようという方式である。ATMを使って、音声やデータを統合するという考えが大勢であった。

 ぼう然と立ちつくす私に構わず、S部長は話を続けている。「これからはパソコンが大きく普及する。それにつれてLAN機器市場も今後拡大が見込める。そう遠くない時期に低価格化が進んで、企業での利用が一般化するのは間違いない」。部長はさらに語気を強める。「そこで音声だ。音声トラフィックはデータ・トラフィックより圧倒的に小さい。だから、音声はインターネットなどのデータ・ネットワークに統合される時代が必ず来る」。


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 [2004/02/27]

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