ソフトバンクの孫正義社長は8月10日,2005年度第1四半期の決算の席上,「おとくライン」の獲得状況や営業手法の変更について明らかにした。おとくラインは傘下の日本テレコムが昨年12月から提供している新型固定電話サービス。

 これによると,おとくラインの6月末回線数は開通ベースで54万。4月末の開通数が44万だったことから,月間平均で5万回線と低調な結果に終わった。この背景には黒字化の実現があった。

 おとくラインの顧客獲得コストを抑えた結果,グループの連結決算は6月には連結営業損益が5億円と昨年9月以来の単月黒字化。孫社長は「6月はおとくラインを加えても月次で黒字。完全にトンネルを抜けた」と宣言した。

 第1四半期の4月から6月までの3カ月では,営業損益が31億円の赤字。前年同期や前四半期と比べて赤字幅が縮小した。なお,連結売上高は2586億円。ソフトバンク・インベストメントが連結から外れたため,売上高は前四半期から166億円減った。「Yahoo! BB」のADSL事業も前四半期に続き通期で黒字化。前四半期の19億円から今四半期は36億円の黒字となった。

 こうした黒字基調を達成するため“公約”を破った。

 5月の2004年第4四半期決算発表では「おとくラインとYahoo! BBを合わせて2005年9月に650万回線」とぶち上げていた。しかし孫社長は今回,「こだわりはないし,650万には力点を置かない。それよりも利益を上げることに優先順位を移す」とあっさり方針を変えた。5月の公約を果たすにはおとくラインを毎月20万回線以上獲得する必要があったが,実績は5万。明らかにおとくラインの顧客獲得費用を抑えている。6月末のYahoo! BBとおとくラインの合計回線数は約543万だった。

 同時に個人ユーザーの一部で問題となっていた営業手法を転換することを明らかにした。孫社長は「個人営業には様々な代理店があったためやや雑な獲得方法となったし,個人に営業コストをかけると採算が合わない」とコメント。「中小や大企業は十分に利益が出る」として企業営業を強化する。

 これを実行に移すため,営業代理店の大部分を日本テレコムとインボイスとで共同で設立した「日本テレコムインボイス」の傘下に集約。大企業を日本テレコム,中堅・中小企業を日本テレコムインボイスが主として販売する。個人は主として日本テレコムが販売していく。

なお,FTTHサービスのYahoo! BB光の回線数は7月末で2万6000。「FTTHは利益が出ないし,あまり無理をしない」(孫社長)と言うが,NTT東西地域会社のBフレッツとの差は広がるばかり。新規参入を表明している携帯電話事業については「いろいろな選択肢がある」としてコメントを避けた。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション