YOZANは,6月に5.7GHz帯を使う無線アクセス実験局の予備免許を取得した後,7月8日に実験本免許を取得。WiMAXの実証実験を開始した。同社の高取直・代表取締役社長に,実証実験の狙いや半年後に迫った商用サービスの概要を聞いた(写真)。

――7月に開始したWiMAX実証実験の狙いは?

 今回の実証実験は,米国デンバーでの実験とほぼ同じ。WiMAXの規格はIEEE 802.16-2004だが,周波数は5.75GHz帯を使う。デンバーの実験では高さ約30~40m程度に設置した基地局を使い,15Mビット/秒以上のスループットが1km以上の距離でも安定して出ていた。東京でも同じような結果が出るかを検証する。実際の商用サービスは4.95GHz帯を使うため,5.725GHz帯で得たデータよりも悪化することはないという考えでやっている。

 実験は,米エアースパン・ネットワークスの「AS3030」という機種をベースにした基地局で実施している。実験の規模はWiMXの親局が5局で,場所は東京の池袋,日比谷,大手町界隈だ。

――2005年12月開始予定のWiMAXサービスの概要は?

 サービスの提供形態は二つ。一つはFWA(固定無線アクセス)サービスで,ADSL(asymmetric digital subscriber line)の巻き取りを狙う。

 もう一つが公衆無線LANサービス。親局にWiMAXを使い,子局にWi-Fiを使う。4.95GHz帯の電波をダウンコンバータを介して2.4GHz帯に変換し,空中線でWi-Fiへの信号を送信する。

 後者のサービスのポイントは,光ファイバの利用効率を上げること。従来は無線LAN基地局まで光ファイバを引いていたが,1本の光ファイバに収容できるユーザー数はさほど多くない。半径100m程度のスポットでは光ファイバの利用効率が上がらず,コスト面で採算を取るのが難しかった。

 WiMAXはその点を解決できる。親局であるWiMAXの基地局は,半径2km程度,市街地の雑居ビルのあるところでも半径1kmのセルとなる。その親局にぶらざがる形で電柱にWiMAX-Wi-Fiコンバータを兼ねる無線LAN基地局を設置していく。この無線LAN基地局を使って,周囲300m程度の無線LANスポット・エリアが出来上がる。

 そうすると1台のWiMAX基地局で600~1000人のユーザーが収容できるため,光ファイバの利用効率が上がり,事業性の問題もクリアできると考えている。

――基地局の展開はどうやって進めるのか?

 当社はアステル東京のブランド名でPHS事業を展開していたが,4月20日で新規受け付けを停止した。7月から「アステル東京電話サービス」のユーザーは,ボーダフォンの携帯電話に移行してもらうような手続きを取っている。このPHSの基地局がポイントだ。

 無線事業では,基地局設置場所の確保が非常に重要。現在,基地局はビル局が東京23区内に3000局,1都8県に2000局。それに加えて電柱局が6万5000局ある。新幹線で東京から静岡県の富士川あたりまで,だいたい80mから400mの間隔でPHSの基地局がある。80m間隔のところは20mW局,400m間隔のところは300mW局,400mW局だ。

 この基地局の中でWiMAX親局が置ける可能性があるのが,5000のビル局。3.5GHz帯や5GHz帯近辺を使う場合,電波の伝搬特定から,ビルの上から下の方を見下ろさないと距離が届かないためだ。電柱の高さでは,想定設計値の半分にも満たない。

 一方で,電柱局には無線LANの基地局を設置して狭いセルで周囲をカバーする。こうした基地局配備ができるのは,PHS事業者ならでは。まさにPHSの基地局配備はWiMAXにとっては理想的にゆりかごだ。

 ローミングやVNO(仮想通信事業者)については,特定の事業者だけではなく全方位外交で考えている。その顧客の一つがライブドアだ。ライブドアは1都8県への展開では同社のインフラではなくYOZANのインフラを使う。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション