米ビデオ54は,複数アンテナを利用して無線LAN(WLAN)の通信を効率化する「BeamFlex」と呼ぶ技術を開発したベンチャー企業。米ネットギアが同技術を採用した無線LAN製品を出荷している。ビデオ54のセリーナ・ロー社長兼CEO(最高経営責任者,写真上)に,BeamFlex技術の特徴や今後の戦略を聞いた。

――複数アンテナを利用して無線LANの通信を高速化する技術に「MIMO」(multi input multi output)があるが,どう違うのか。

 コンセプトや原理はMIMOと基本的に同じ。しかし,MIMOはまだIEEE802.11nとして標準化が終わっていない。現在は各社が独自に実装しており,既存の無線LAN製品と組み合わせて利用できない。これに対してBeamFlexは,IEEE 802.11a/b/gをベースにしており,既存製品と組み合わせて利用できる。

 BeamFlexでは高速化というよりも,無駄になっている電波を有効活用する目的で複数アンテナを利用する。既に出荷されているネットギア製品を例に挙げると,計7本の指向性アンテナを搭載している。この7本のアンテナのオン/オフを動的に制御することで,狙った方向に電波を出すことができる。

 どの組み合わせでアンテナをオン/オフするかというアンテナ・パターンを常に学習しており,データベースを持っている。人が電波を遮った場合は,より信号の状態が良いアンテナ・パターンに切り替える。すべてのアンテナがオフになることはないので,計127種類のパターンから最適なものを選ぶことになる。

 この仕組みにより,電波を無駄なく使い,高スループットを実現する(ネットギアが公表している無線の実効スループットは最大50Mビット/秒)。無線のカバー・エリアも他の製品より約2~3倍伸びる。価格も通常のアクセス・ポイント(AP)に比べて数十%高くなる程度で,MIMO搭載製品より安価だ。

――今後,どのようなビジネスを展開していくのか。

 BeamFlexは,他の無線LANチップセットと組み合わせて利用できる。ネットワーク機器やパソコンのメーカーだけでなく,テレビや映像配信を提供するサービス・プロバイダ,家電メーカーなどへの販売も強化していく。セットトップ・ボックスやコンバータといった機器に組み込んで使ってもらう。7月には,6本のアンテナを搭載したイーサネット・コンバータ(写真下)を出荷する予定だ。

 中でも期待できるのはサービス・プロバイダへの販売。今後はインターネット接続に電話や映像サービスを組み合わせて提供する「トリプルプレイ」が重要になってくる。家の中で歩き回りながら通話したり,寝室やリビングで映像を見たりしたいというニーズが当然のように出てくる。家中にケーブルを引き回すことを嫌うユーザーは多いので,必然的に無線LANを使うことになる。

 しかし,現状ではこうした要件を満たすのは非常に難しい。特に映像は,現在市販されている製品ではまともな利用に耐えないだろう。映像や音声を途切れなく流すには,BeamFlexの技術が不可欠になる。現在,日本国内のサービス・プロバイダとも話を進めている。近い将来,BeamFlexを利用したサービスが提供されることになるだろう。