広帯域を使う近距離無線通信技術UWB(ultra wideband)が岐路に立たされている。5月末,ITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication Sector,国際電気通信連合の無線通信部門)の作業部会が出したUWBと他の無線システムとの共用条件が,FCC(米国連邦通信委員会)の基準よりも厳しいものとなり,今後のUWBと他の無線システムとの共用が難しくなりそうだ。5月末のITR-Rによる勧告草案は,「事実上10月の勧告となるもの」(関係者)であり,日本でのUWB共用検討の議論も今回の勧告草案を基に進められることになる。

 UWBは3.1G~10.6GHzの広い帯域を使う近距離無線通信技術の総称。伝送速度は100Mビット/秒程度,通信距離は10m程度を想定している。その用途は,パソコンやその周辺機器,家電機器の接続を想定。例えば米インテルはUWBを使うアプリケーションとして,既存のパソコン向けインタフェースであるUSB(universal serial bus)の無線版を考えている。

 ただし,3.1GHz~10.6GHz帯は,既に日本では放送事業,無線LAN,各種レーダ,電波天文,アマチュア無線など様々な目的で使用されており,米国や欧州でも似たような状況。また,将来的に第4世代携帯電話(systems beyond IMT-2000)の候補周波数帯とされる3.4G~4.9GHz帯とも重なる。そのため,UWBはこれらの無線システムとの共用が前提で,各国で干渉を防ぐためのUWBの電波出力許容値が検討されている。

 米国のFCCは,2002年にUWBと他の無線システムが共用するための許容値を制度化。例えば電波天文業務では,FCCの許容値は1MHz当たり-41.3dBm(0.000074131ミリW)の空中線電力としている。だが,今回のITU-Rの勧告草案では,同じ電波天文業務での許容値としてさらに電力が小さい-82.9dBm,-93.4dBmと非常に厳しい値を提示。その他の周波数帯でもFCCの許容値を大幅に下回る値を示した。

 このITU-Rの勧告草案を考慮すると,「UWBのあり方そのものを考え直す必要が出てくる」(関係者)。例えば,(1)厳しい許容値を条件とした超短距離の無線技術とするか,(2)新たな干渉を避ける技術を検討するか,さらに(3)UWB専用の周波数帯域を要求するか--といった点が議論される可能性があるという。

 日本におけるUWBの利用検討については,内閣府の「規制改革・民間開放推進3カ年計画」(2004年3月に閣議決定)の中で,2005年度中に技術基準などの制度整備に向けた結論を出すこととなっている。今回のITU-Rの勧告草案によって,スケジュールなども含めて再検討される可能性が高くなってきた。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション