「ホーム・ネットワーク(家庭内LAN)の本命技術は,次世代無線LAN規格のIEEE 802.11n(11n)。電力線通信ではない」――とチップ・ベンダーであるイスラエルのメタリンクのバリー・ボリンスキー家庭用ブロードバンド製品担当アソシエイト副社長は語る(写真)。11nは100Mビット/秒以上の実効速度を目指し,現在標準化作業中。同社はVDSL(very-high-bit-rate digital subscriber line)向けチップを開発してきたが,事業拡大を狙い2004年から無線LANチップ事業に進出した。第1弾製品として,6月から11nのドラフト仕様に対応したRFチップ「MtW8150」のサンプル出荷を開始。2005年後半にはベースバンド・チップ「MtW8170」を出荷し,両者を組み合わせた無線LANチップ・セット「WLANplus」として事業展開する予定だ。ボリンスキー氏に,ホーム・ネットワークにおける無線LANの位置付けと11nの動向について聞いた。

――無線LANをホーム・ネットワークの本命とする理由は何か。

 ケーブルをつなぐ必要がないことが理由だ。家庭内にはコンセントにつながない製品も多い。例えば,デジタル音楽プレーヤーなど電池で駆動する製品だ。電力線通信では,こうした製品は通信できないことになる。無線LANと組み合わせれば解決できるかもしれないが,二つのネットワークを使うとコストが高くなる。通信チップを2個内蔵すること自体がコスト増の要因になるし,ネットワークのメンテナンスも面倒だ。それならば,高速な無線LANだけでホーム・ネットワークを構成した方が都合がよい。

――11n対応製品はいつ頃出てくるのか。

 標準化作業は2006年末までに済む見込みだ。ただし標準規格の内容がほぼ固まる2006年後半には,アップグレードで11n標準に対応にできる製品“Pre N”が一足早く流通しているはずだ。そして2007年には,流通するほとんど製品が11n対応になっているだろう。そのため2007年末までに家電も含めた無線LAN機器の半分が11n対応となり,2008年にはほとんどが11n対応になると予想している。

――WiMAXなどの公衆用無線ブロードバンド規格も立ち上がりつつあるが。

 無線LANとWiMAXは競合しないと見ている。家庭での利用を例に取ると,無線LANは家庭内の家電同士や家電とパソコンなどを接続する高速通信手段となる。一方のWiMAXは,モバイル環境でのインターネット・アクセス手段。そもそも適用範囲が違うのだ。WiMAXと競合するのは,第3世代携帯電話やADSL(asymmetric digital subscriber line)などだろう。

(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション