「現在の無線LAN市場は,コンピュータ・ネットワークに焦点を当てているが,今後は家電機器や携帯電話など,さらに大きな市場に広がる」--。無線LANチップ・メーカーである米アセロス・コミュニケーションズのウィリアム・マクファーランド最高技術責任者(CTO,写真)は,新製品発表に当たって今後の市場をこう見通した。

 アセロス・コミュニケーションズが6月7日に発表した新製品「AR6000シリーズ」は(米国では5月23日に発表済み),IEEE 802.11a/gもしくはIEEE802.11gに対応する無線LANチップ。携帯機器などの市場を狙った戦略製品である。携帯機器の搭載時の課題である消費電力を抑えたのが特徴で,他のベンダーの従来型の無線LANチップとの比較では電力効率が6倍程度向上したという。

 特に消費電力の向上はVoIP(voice over IP)やビデオ・データなどパケットが定期的に送信されるアプリケーションを意識した。APSD(automatic power save delivery)プロトコルと呼ぶIEEE 802.11e(QoS=quality of service維持のための規格)のオプション要素を実装。パケットの送受信を工夫し,機器をできるだけ長くスリープ状態にして,バッテリーの消費を抑える。

 ただしAPSDは対向となる無線LANアクセス・ポイント(AP)側と端末側の両方の対応が必要。同社では,「現在一部のパートナーにはAPSDをサポートする無線LAN AP用チップを提供している」(マクファーランドCTO)とし,「将来的にはAP側もAPSDに対応する予定」だ。

 今回発表した製品はIEEE 802.11a/g対応の「AR6001X」とIEEE 802.11g対応の「AR6001G」の2製品。MAC(メディア・アクセス・コントローラ)やベースバンド・プロセッサなどを1チップ化した。価格は1個当たり12ドル程度だが注文数量によって価格は下がる。現在サンプル出荷を始めており,量産は2005年第3四半期となる予定。なお,同社が開発した無線LANの実効スループット高速化技術である「Super A/G」や距離の延長技術である「eXtended Range(XR)」への対応は「今回発表した第一世代の製品では対応しない」(マクファーランドCTO)。

 同社日本法人の大澤智喜代表取締役は,今回のチップが実際に搭載される製品としてディジタル・カメラ,DVカメラ,無線IP電話および無線LAN/携帯電話のデュアル端末を挙げた。一般のユーザーが同社チップを搭載した機器を手にする時期は「もっとも早くて今年のクリスマス・シーズン,多くの製品が出てくるのは2006年の春ころ」(大澤代表取締役)とした。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション