韓国のNTTに当たるKT(Korea Telecom)は,高付加価値化したネットワーク「オクターブ」や高速無線通信「WiBro」などの計画を相次いで発表して,世界の注目を集めている。「BROADBAND WORLD FORUM ASIA」に合わせて来日したKTの尹宗録新事業企画本部 本部長/専務に話を聞いた。(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション)

――オクターブ・プロジェクトとは何か。

 現状のネットワークの品質を一段階あげるプロジェクトだ。オクターブにはサービスの品質を一段階(オクターブ)上げるという意味が込められている

 現在のネットワークはベストエフォートが基本。セキュリティも十分ではない。例えるならば,誰もが水の中に入れ,高波などの危険も伴う「海水浴場」だ。一方の「オクターブ・プロジェクト」のネットワークは「プール」のようなもの。プールに入る人は限定され,安全も確保されている。そんなQoSやセキュリティを付加した,プレミアムなネットワークを2007年までに提供したい。

――電話網のIP化も計画しているのか。

 2010年までに,ネットワークをAll IP化する。一つのコア・ネットワークを使って,50M~100Mビット/秒の高速通信サービスを固定にも移動体にも提供する。

 これは韓国の情報通信部(日本の総務省に当たる)が進める次世代ネットワーク構築のためのコンセプト「BcN(Broadband Convergence Network,通信・放送・インターネットが)」に沿った計画だ。現在来年度の予算が策定中でそれが決まり次第,より詳細な移行計画が分かるだろう。2006~2007年に市外網をIP化し,2008~2010年でローカルの交換機もすべてIP化する。IP化を完了すると電話局はデータ・センターになり,通信路を使ってコンピューティング・パワーを提供するようになる。

――IP化に向けてソフトスイッチなどの機器は準備しているのか。

 この4月にKTと韓国サムスン電子が共同開発したソフトスイッチが完成した。検証も95%ほど完了したところだ。今年の秋には,このソフトスイッチを実際のサービスで使ってみようと計画している。

――KTの取り組みを見ていると,これまでのように電話やインターネットを提供するだけの通信事業者の役割が大きく変化しているように感じる。

 この10年の間,通信事業者が運ぶものは音声からデータへと大きく変化した。この先の10年は,通信事業者は単なるデータからコンピューティングを提供するように変化する。通信事業者がソリューション・プロバイダになるということだ。

 例えばKTは「Bizmeka」というASPサービスを提供している。中小企業向けの業務アプリケーションをネットワーク経由で提供するサービスだ。ソリューション・プロバイダーになるという意味は,単なる音声やデータ通信だけを提供するのではなく,このようにより付加価値のあるサービスを提供することを指す。

 これからの10年間,ソリューション・プロバイダーに変わらない通信事業者は,AT&TやMCIのように名前が消えていく運命にあるだろう。

――韓国では2005年にも高速無線LANであるWiMAXをベースにした「WiBro」サービスがスタートする。KTもサービス提供予定と聞く。どんなサービスになるのか。

 まずはKTF(KTの子会社である携帯事業者)と共同でWiBroとCDMAのデュアル端末を出す。このほかWiBroサービスでは,視覚と聴覚の両面でコミュニケーションできるような仕組みも取り入れようと端末の開発を進めている。WiBroはワイヤレスの爆発的な普及に必ず寄与できると考えている。