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 日本テレコムの「おとくライン」やKDDIの「メタルプラス」。そして,2003年メタル線による直収電話を切り開いた平成電電の「CHOKKA」。

写真1
写真1●5月10日の決算発表の会場で「おとくライン」の回線数を発表するソフトバンクの孫正義社長

 これらの直収電話は現時点の実績だけで見れば,ニッチな固定電話サービスである。NTT固定電話の回線数は約6000万。これに対して直収3社のサービスは,4月末の時点で,おとくラインは約44万,メタルプラスは約14万(写真1)。CHOKKAは回線数を公表していないが,3社合わせてやっと50万回線を超えたところだ。シェアで見ればおよそ1%となる。

 一方で直収電話への危機感からNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が送り込んだプラチナ・ラインは,予想を上回る勢いで伸長。本誌の推定では直収3サービスの3倍となる約150万回線を獲得したと見られる。

 ただ,直収電話にはマイラインとは一線を画す将来がありそうだ。

自社で回線を持つことの意義

 直収電話はその名から見てとれる通り,通信事業者がユーザーまで回線を直接収容するサービス。実はこの形式は,通信業界で珍しいものではない。例えば,企業向けの電話サービスではNTTコムやKDDIが光ファイバをビルに直収して提供している。また,ケーブル・テレビ(CATV)の電話も同軸ケーブルを使った直収サービスと言える。さらに携帯電話も無線による直収サービスと見ることもできるだろう。

 ここで重要なのは,直収で自前のアクセス回線を持つことで,“自立”できるということだ。

 マイラインでは,東西NTTの電話網を利用するため,提供事業者は接続時間に応じた接続料を東西NTTに支払う必要がある。直収電話では,この接続料の負担が極めて軽くなる。もちろん直収電話から東西NTTのユーザーに電話をかける際には接続料を支払う必要があるが,東西NTTから直収電話への着信時には接続料を逆に徴収できる。

 この発信と着信の通話回数や時間が同等であれば,接続料は相殺されてゼロになる。実際,CATVの同軸ケーブルによる直収電話を提供しているジュピターテレコムは「接続料が値上がりしても影響は小さい」と明かす。

 すべて自前のネットワークとなるので,自社サービスのユーザー間であれば無料であったり定額料金のサービスが実現できる。例えば,CHOKKAは個人ユーザーが月315円,法人ユーザーなら月630円の追加料金で加入者間の通話がかけ放題となる。一方でメタルプラスは法人ユーザー限定であるが,月1050円でメタルプラスやKDDIのIP電話サービスへの通話が無料となる。

 こうした定額サービスのバリエーションが増えれば,企業内の内線を直収電話のみで構築するユーザーが増えることだろう。

 直収電話で提供される安価な定額サービスは,東西NTTに接続料を支払うマイラインでは難しい。さらにサービスを魅力的なものにするには,KDDIであれば携帯電話との定額通話サービスが考えられる。日本テレコムもソフトバンク・グループが携帯電話や無線LAN携帯などに参入すれば,当然視野に入ってくる。

 実現の可能性は別にして,KDDIと日本テレコムの両直収電話サービス間の通話を定額化すれば,東西NTTに対抗するための強力な武器になるはずだ。両社間のトラフィックがほぼ同じであれば,やり取りする接続料はほぼ消滅するため,不可能ではない。

自社ユーザーに仮想内線サービス

 さらに将来に向けて重要なのが,直収回線を持つことで自前のサービスを提供しやすくなることだ。

写真2
写真2●KDDIはIP化されたバックボーンを生かして直収電話「メタルプラス」の新たなサービスを模索

 例えば,KDDIはメタルプラスのバックボーンをIP網で構築し,IP電話と同様のサーバーで制御している(写真2)。そのため,現在IP電話で提供されていたり,開発されているアプリケーションとの連携が容易にできる。

 実際,KDDIの小野寺正社長は昨年9月,メタルプラスの発表記者会見で本誌がアプリケーション連携機能の提供について質問したところ,「ボイス・メールなどIPならではのサービスについても考えていきたい。1人1番号を持たない日本ではボイス・メールが根付くかどうかは疑問があるが,加入権が必要ないメタルプラスなら普及するかもしれない」と答えている(参考記事)。

 現在は従来型の交換機でサービスを提供しているおとくラインも,IP化が見えている。日本テレコム取締役会議長を兼務するソフトバンクの孫正義社長は,「たまたま今は従来型の交換機をバックボーンとして使っているが,実はIP網にもつながる仕様となっており,もうじき実現させる」と5月の決算発表で宣言した。

 また日本テレコムの宮川潤一取締役も,昨年のインタビューで本誌に「おとくラインを利用して,企業向けのIPセントレックスのサービスを提供することも考えている」と明かした。つまり,ブロードバンド回線を引き込まなくても,メタル線の電話回線だけでIPセントレックスと同等のサービスが使えるようになる。大きな拠点であれば,光ファイバで直収するケースもあるだろう。

 こうしたIPセントレックス・サービスを使えば,本社や支社,営業所などの拠点間を直収電話で内線化できる。センター側で,内線番号や代表番号,電話機の鳴り分けを設定することとなる。

 このほか,現在IP電話で提供されたり投入が予定されているようなアプリケーションとの連携サービスが視野に入ってくる。

 例えば,オンラインのアドレス帳による発信や携帯電話のような受発信履歴の管理ができる。伝言メッセージをサーバーに保管。さらにその内容を音声ファイルに変換して電子メールに添付して送信する,いわゆるユニファイド・メッセージの機能も提供可能だ。

このままの営業ではニッチのまま終わる

 ただし,直収電話がこうした未来を切り開くには,機能面での強化とともに忘れてはならないことがある。営業手法に関するユーザーへの配慮である。契約の獲得に走っている代理店の一部が,ユーザーとの間で問題を起こしているからだ。ユーザーに直収電話のサービスについて十分な説明をしていなかったり,NTTのサービスと間違うような営業トークで勧誘しているというのである。中には,営業員が勝手に契約書を書いたケースすらある(参考記事)。

 直収電話はブロードバンドではなく,ライフラインの固定電話である。110番や119番の緊急通報だけでなく,警備システムやエレベーターの監視システムなど,あらゆる重要なところで使われている。固定電話がこうした重要なサービスであることを,電話事業者や代理店は再認識すべきではないか。

 直収電話がどんなにいいサービスであったとしても,ユーザーに不信感をもたれてしまったらニッチなままにとどまるだろう。ユーザーは次第に問題を認識するようになり,安易な営業トークだけでは一定の普及率でとまってしまうことだろう。

 直収電話がブレイクするには,サービスの高度化と営業手法の改善という両輪を回す必要がある。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】特集ページはこちらをご覧下さい。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】記事一覧
●(1) NTT電話とはここが違う,使い方によっては大幅安
●(2) ADSLが選べなくなる,直収電話への移行の最大の壁
●(3) 巻き返すNTTグループ,マイライン戦線に異常あり
●(4) 光ファイバ直収もある,企業ユーザーは見逃すな
●(5) 直収の未来は大ブレイクかニッチのままか