直収電話の開始で,競争が激化している電話事業。ユーザーにとっては固定電話の選択肢が広がり,料金的なメリットが出始めている。おとくラインやメタルプラスといった格安な直収電話が登場しただけでなく,従来からある加入電話やISDNの料金も値下げされたからだ。

 例えば,東西NTTによる直収電話への対抗値下げは多岐にわたった。都市部の3級局では月額1837.5円の基本料金が月額1785円へと52.5円値下げ。プッシュ回線利用料金の月額409.5円も無料とした。さらに通話料金の明細を電子化すると,月額105円を割り引くというサービスも新たに投入した。

 地域会社の料金政策を取り仕切るNTT東日本の有馬彰取締役は,昨年10月1日の値下げ会見で「ドライ・カッパーを使った少し安い電話が出てきた。若干古い“遺物”があったので,それを整理し,競争対抗上の対策を出した。十分に戦える水準だ」と余裕の表情で語った(関連記事)。

 この有馬取締役の読みは,今のところ当たっている。直収電話の料金的なメリットが発表当初より薄れた結果,日本テレコムやKDDI傘下の代理店は“営業トーク”によるユーザー獲得へと傾倒。一部代理店は少々強引な営業をかける結果となり,日本テレコムが総務省から厳重注意を受けたり,NTT西日本による強い抗議を受けることとなった(関連記事)。

収束に向かっていた市場が再活性化

 さらに,日本テレコムやKDDIが思いもよらなかった“伏兵”が登場した。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の新しいマイライン・サービス「プラチナ・ライン」だ(写真)。

 プラチナ・ラインは市内,県内市外,県外,国際のマイライン全4区分をNTTコムと一括契約することで通話料金を割り引くサービス。事業者を固定するマイラインプラスの契約となるため,他社の事業者番号を回してかけた場合でも常にNTTコムの電話サービスを利用することになる。

 同サービスの誕生までには紆余曲折(うよきょくせつ)があった。昨年の9月,NTTコムは日本テレコムやKDDIに追随して,直収電話への参入を本格的に検討した。しかしNTTグループ内での調整によって「加入者網に二重投資はしない。NTTコムには直収電話はあきらめてもらう」(NTTグループ幹部)との結論が導き出された。こうしてNTTコムが急きょ打ち出した策が,従来のマイラインの料金体系や契約形態を変えることだった。

図1●固定電話のマイライン登録回線数の単月の増減
マイライン事業者協議会が公表しているデータから日経コミュニケーションが作成(日経コミュニケーション2005年4月15日号31ページより)
 ふたを開けてみると,プラチナ・ラインは関係者の予想を上回る勢いで伸びていった。そして収束に向かうと思われたマイラインの市場を再度かき回し始めた(図1)。プラチナ・ラインが始まった昨年12月にはいきなり20万回線以上の契約を獲得。そのあおりで各事業者は回線数を大きく減らした。その後は,30万,40万と毎月のように驚異的な伸びを示した。

 最新のデータによると,プラチナ・ラインを開始した昨年12月から今年4月までの5カ月間の累計で,県外区分で91万3000回線,市内区分で148万4000回線をそれぞれ上乗せしている。

 一方で,同日にサービスを始めたおとくラインの開通数は4月までの5カ月間で,44万回線。プラチナ・ラインが好調だった1カ月分の獲得数を少々上回る程度にとどまり,数字だけみればNTTコムの圧勝と言える。

極めて分かりやすいプラチナのメリット

 では,プラチナ・ラインはなぜ大躍進しているのか。その理由は,プラチナ・ラインが直収電話の最大メリットといえる料金面で対抗し,さらに直収電話のデメリットといえる移行時の負担が少ないからだ。これがユーザーに受け入れられたといえる。

 まず料金。プラチナ・ラインはマイライン契約のため,特別な料金は必要ない。基本料金は東西NTTが引き下げており,自動的に直収電話と同等となった。その差は都市部3級局の加入電話で月105円だ。

 そして通話料金もほぼ同じ。プラチナ・ラインは,県外通話が全国一律3分15.75円,市内も含む県内通話は同8.4円。これに対しておとくラインは個人向けのプランで県外3分15.645円。市内も含む県内通話が同8.295円である。数十銭の単位でおとくラインが安いが,ほぼ同じと言える。

 さらに新サービスへと移行しても,ADSLサービスや付加サービスなどユーザーの環境はそのまま。使える使えないといった細かな違いを気にする必要がない。

 またエリアの展開でも,全国どこでも契約できるプラチナ・ラインが有利。一方の直収電話は,ADSLのように事業者がNTTの電話局に装置と回線を敷設していく必要がある。エリアになっていても装置が調達できないと,ユーザーは開通まで待たされるケースがある。

プラチナ・ラインに立ちはだかる原価高騰

 このようにいいことづくめに見えるプラチナ・ラインではあるが,行く手が順風満帆というわけではない。

 極めて大きな壁が待ち受けている。電話サービスを提供するための原価にあたる電話接続料の高騰だ。日本テレコムやフュージョン・コミュニケーションズなど電話会社大手は2003年から始まった接続料の上昇に「もう限界。料金の値上げを検討せざるを得ない」と音を上げ始めている。さらに来年度以降も上昇する可能性が極めて高い。

 日本テレコムとKDDIが直収電話へと移行した最大の理由の一つが接続料の回避でもあった。直収電話であれば,東西NTTと同様に自社の電話網を構築することになり,東西NTTなど他社からの着信時に逆に接続料をもらえるからだ。つまり発信と着信の通話トラフィックが同じであれば理論的に接続料の支払いがゼロとなる。

 こうした接続料高騰の影響をプラチナ・ラインはまともに受ける。接続料をいままで通り東西NTTへと支払うマイラインのサービスだからだ。NTTコムの電話サービスの料金収入はおよそ年間4500億円。一般にユーザーからの料金収入の4~5割が接続料と言われており,これから類推すると,NTTコムは年間2000億円前後もの接続料を負担し東西NTTに支払っている。仮に接続料が1割値上がりすると,200億円規模の支払い増となる。実際に現在はこの状況と言える。

 NTTコムは「料金請求まで至るサービス提供の各プロセスを見直すなどでコストを切り下げ,プラチナ・ラインを実現した」と説明するが,接続料の高騰はつらいはず。実際,ソフトバンクBBは接続料の高騰を理由として,7月にIP電話サービス「BBフォン」の通話料金を値上げする。接続料の高騰が続けば,NTTコムも場合によってはプラチナ・ラインの料金値上げを検討せざるを得ないだろう。

 さらに直収電話の逆襲もありうる。様々な課題があるものの,日本テレコムやKDDIの直収電話は年々回線数を着実に伸ばしていくことだろう。例えば,UBS証券会社・株式調査部マネージング ディレクターの乾牧夫シニアアナリストは,2007年3月には両社合わせて900万回線とのレポートを出している。

 接続料に左右されない直収電話が増えれば,日本テレコムやKDDIは値下げや乗り換えなど強烈なキャンペーンを展開する余力が出てくる。さらに両社が直収電話へとシフトすることで東西NTT電話網の利用者が減ると接続料が高騰。プラチナ・ラインの収益を苦しめることになる。

 もっとも,そのころには電話単体での競争時代は終わっているかもしれない。携帯電話やIP電話,アプリケーションとの連携サービスが求められる。そうしたサービスは直収電話の方が提供しやすいと言えるだろう。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】特集ページはこちらをご覧下さい。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】記事一覧
●(1) NTT電話とはここが違う,使い方によっては大幅安
●(2) ADSLが選べなくなる,直収電話への移行の最大の壁
●(3) 巻き返すNTTグループ,マイライン戦線に異常あり
●(4) 光ファイバ直収もある,企業ユーザーは見逃すな
●(5) 直収の未来は大ブレイクかニッチのままか