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 低料金を売りにNTT電話の置き換えを狙う直収電話だが,加入者が伸びない最大の要因は利用できるADSL(asymmetric digital subscriber line)サービスの制限にある。総務省がこの4月に発表したデータによると,2004年12月末時点におけるADSLの契約回線数は約1333万に達している。地方への普及も進み,ほとんどの地域のユーザーが複数のADSLサービスから選択できる環境にある。

 しかし,直収電話に移行すると,選択肢が一気に狭くなってしまう。現状は直収電話事業者またはグループ会社が提供するサービスに固定される。050番号のIP電話サービスも利用できなくなる。

 「DION」の名称でインターネット接続サービスを提供しているKDDIを例にとれば,「メタルプラス」で利用できるADSLサービスはイー・アクセスがアクセス回線を提供する「メタルプラスネットDION 」のみ。同じDIONのサービスでも,フレッツ・ADSLやアッカ・ネットワークスなどがアクセス回線を提供するメニューには対応していない。

 日本テレコムの「おとくライン」と平成電電の「CHOKKA」も同様だ。日本テレコムは「ODN」の名称で提供しているインターネット接続サービスには対応せず,グループ会社のソフトバンクBBが提供するADSLサービス「Yahoo! BBおとくラインタイプ」しか利用できない。平成電電も自社で提供しているADSLサービス「でんわ石火」のみの対応である。

知らぬ間にADSLが使えなくなるケースも

写真1
写真1●ホームページで注意を呼びかけるニフティ

 直収電話に移行した場合の制約を知らずに加入してしまうと,突然ADSLが使えなくなったというトラブルに陥ることになる。NTT電話を解約して直収電話に移行する際は,NTT東西地域会社の交換局にあるMDF(主配線盤)でジャンパの切り替え工事を実施する。加入者線の接続先を東西NTTの交換機から直収電話事業者の装置に切り替えるためだ。その結果,それまでつないでいたADSL事業者のDSLAM(ADSL回線を多重する装置)への接続が切れる。

 ジャンパの切り替え工事を行う東西NTTは,ユーザーがADSLを利用しているかどうかに関与しない。NTT東日本のある幹部は,「ADSLを利用している場合はジャンパの切り替え工事をしないでその旨回答してほしいという依頼を受けたことがあるが,顧客情報の流用につながる恐れがあるので断った。直収電話事業者が責任を持ってADSLの利用状況をユーザーに確認すべき」としている。

 インターネット接続事業者(ISP)にも問い合わせが増えている。「つながらなくなった」,「直収電話を利用できないのか」といった内容だ。各ISPはホームページで注意を促している(写真1)。

移行に手間がかかり,IP電話の利用も制限

 「Yahoo! BB」や「DION」を既に利用している場合も,注意すべき点がある。現在,直収電話が提供しているADSLサービスは,既存のものとは異なるものと考えておいた方が良い。

 まず,切り替えに手間がかかる。例えば「Yahoo! BB」の場合,既存サービスを一度解約し,「Yahoo! BBおとくライン」に再度申し込む必要がある。新規の申し込みと同じ扱いになるので,それまで使っていたメール・アドレスなどは変更になる。乗り換え手数料や局内工事費も発生する。

 「DION」も切り替えの手続きは基本的に同じ。一度解約し「メタルプラスネットDION 」を新規に申し込む必要がある。ただし,KDDIでは解約と申し込みの手続きを一括して行い,メール・アドレスやホームページなども継続して利用できるとする。切り替えに伴う費用も5月31日までのキャンペーン期間中は無料にしている。

 次に,利用できるオプション・サービスに制限がある。中でも注意したいのが,050番号のIP電話サービス。「Yahoo! BBおとくライン」,「メタルプラスネットDION 」の両方とも未対応である。BBフォンやKDDI-IP電話で提供されている加入者間無料通話を活用していたユーザーの場合は,直収電話への移行で電話料金が高くなる可能性もある。

対応を決めかねるADSL事業者とISP

 もちろん,直収電話事業者もこのような状況を放置しているわけではない。例えばソフトバンクBBは「具体的な時期は明らかにできないが,メール・アドレスの継続利用やBBフォンへの対応も含め,使い勝手を改善するためにいろいろと準備している」とする。こうした状況は,今後徐々に改善していくと思われる。

 対応するADSLサービスに関しては,自社の直収電話向けにADSLサービスを提供してもらうように各ADSL事業者と交渉中である。直収電話では,加入者線の管理が東西NTTから直収電話事業者に移行する。直収電話事業者が加入者線の提供者として各ADSL事業者と契約を結び直す必要がある。直収電話事業者からは,「できれば東西NTTのフレッツ・ADSLとも接続したい」という声も聞こえる。

 ただし,ADSL事業者の対応が進んだとしても,ISPが即座に提供するかどうかは微妙だ。ほとんどのISPは既に050番号を利用したIP電話サービスを提供しており,直収電話とバッティングすることになる。ADSLのユーザーを増やせる半面,IP電話サービスの解約が増加する可能性が高い。またISPには,「そもそもIP電話サービスのユーザーは,切り替えの手続きをしてまで通話料金がほとんど変わらない直収電話に移行しないのではないか」といった意見もある。ADSL事業者やISPの多くは「様子見」というのが実情だ。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】特集ページはこちらをご覧下さい。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】記事一覧
●(1) NTT電話とはここが違う,使い方によっては大幅安
●(2) ADSLが選べなくなる,直収電話への移行の最大の壁
●(3) 巻き返すNTTグループ,マイライン戦線に異常あり
●(4) 光ファイバ直収もある,企業ユーザーは見逃すな
●(5) 直収の未来は大ブレイクかニッチのままか