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 日本テレコムの「おとくライン」やKDDIの「メタルプラス」など,新型固定電話サービスが本格的な展開を見せ始めた。直収電話とも呼ばれるこれらのサービスは,低料金を売りにNTT電話の牙城を切り崩しつつある。しかし,使い勝手の面でNTT電話と差はないのか,何か制約はないのか──など疑問点も多い。まだまだ発展途上にある直収電話と同サービスを取り巻く通信業界の最新動向を,一週間にわたって浮き彫りにする。

日本テレコム,KDDIとも2005年は直収電話に注力

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写真1●駅前でKDDIの「メタルプラス」への加入を勧誘

 直収電話とは,NTT東西地域会社が敷設済みのメタル回線(ドライ・カッパー)を利用した電話サービスのこと。「NTT電話よりも基本料と通話料が安い」ことを売りに華々しく登場した新型の固定電話サービスである。平成電電が2003年7月に「平成電話」の名称でいち早くサービスを開始(現在の名称は「CHOKKA」)。その後,2004年12月に日本テレコムが「おとくライン」を始め,2005年2月にはKDDIが「メタルプラス」で参入した(写真1)。

 ただし,2004年度通期の決算発表でKDDIと日本テレコムが明らかにした回線数をみると出足は鈍い。メタルプラスは4月25日時点で約14万回線,おとくラインは4月末時点で約44万回線である。東西NTTの固定電話は,約6000万回線ある。NTT電話の置き換えを狙って登場した割には少ないと言わざるを得ない。

 もちろん両社は,この数字で満足しているわけではない。両社とも2005年度は直収電話に力を入れることを宣言している。KDDIは2005年度末までにメタルプラスを220万回線にするとぶち上げた。日本テレコムはおとくラインの数値目標を明らかにしていないが,親会社のソフトバンクはソフトバンクBBのADSL(asymmetric digital subscriber line)サービス「Yahoo! BB」と合わせ,9月末までに650万回線にすると明言した。

 おとくラインとYahoo! BBの合計は,2005年4月末時点で524万3000回線。これに125万7000回線を上乗せする必要があり,達成するためには1カ月当たり25万回線のペースで加入者を増やさなければならない。Yahoo! BBの純増数はここ2カ月間で2万回線台に低迷しているため,25万回線の大半をおとくラインで獲得していくことになるとみられる。

「0120」や「0570」といった特番に発信できないことも

 では,「メタルプラス」や「おとくライン」といった直収電話の実力はどうなのか。具体的に既存のNTT電話とどこが違うのか。

 結論から言えば,基本的な機能に大きな差はない。「03」などの「0AB~J番号」を利用できるほか,警察(110)や消防(119)といった緊急通報も可能だ。しかし,細かく見るとNTT電話と異なる点が多々ある。中でも注意したいのがADSL。現状では提供事業者またはそのグループ会社が提供するインターネット接続サービスしか利用できない。ADSL事業者も選べない。このことを知らずに移行してしまうと,突然ADSLが使えなくなる危険性もあるのだ。

写真2
写真2●注意書きがずらりと並ぶ「おとくライン」のパンフレット

 特定の番号に発信できないという制限もある。警察や消防,時報,天気予報,番号案内など,よく利用するものに関しては問題なく発信できるが,ダイヤルQ2やコレクトコール,一部の着信課金サービス(0120など)や課金分割サービス(0570など)には発信できない。特に着信課金と課金分割は商品などの問い合わせを受け付けるコール・センターや,プロバイダのアクセス・ポイントなど多くのサービスで利用されているだけに,不便を強いられる恐れもある。

 例えばスカイパーフェクト・コミュニケーションズでは,「SKY PerfectTV!」のPPV(ペイ・パー・ビュー)を視聴できなくなる不都合が一部ユーザーで発生している。「PPVの購入履歴を管理する仕組みに着信課金サービスを利用しているのが原因。KDDIのユーザーは問題ないが,現状では日本テレコムと平成電電のユーザーがPPVを視聴できない」(同社)としている。

 直収電話事業者が配布するパンフレットには,これらの内容を記述した注意書きがずらりと並ぶ(写真2)。もちろん,すべてのユーザーがNTT電話と同じサービスや機能を必要としているわけではないが,ユーザーによってはトラブルに陥る可能性がある。加入前には注意事項の確認が欠かせない。

料金は安い,ただし初期費用の回収には相応の期間が必要

 肝心の料金も,東西NTTの対抗値下げなどにより,直収電話サービス開始当初の魅力は薄れつつある。

 まずは基本料。メタルプラスとおとくラインの基本料は月額1575円(おとくラインは3級局の場合)。確かに東西NTTよりも安い。ただし1月1日に実施した基本料値下げにより,NTT東日本の基本料も現在は月額1785円(3級局の場合)となっている。その差はわずか210円だ。おとくラインとメタルプラスは,開通後60カ月間は月105円の工事費が加算されるため,実質は105円しか差がない。

 次に通話料。現在,NTT電話で何も割引サービスを活用していないユーザーであれば,直収電話に乗り換えることで県内市外や県外への通話が大幅に安くなる。しかし「マイライン」や「マイラインプラス」による割引サービスをすでに活用していたり,IP電話サービスに契約しているユーザーは,移行によるコスト削減効果はさほど期待できない。例えばNTTコミュニケーションズが昨年12月から提供開始した「PL@TINUM LINE(プラチナ・ライン)」は,市内/県内市内/県外の通話料がメタルプラスと全く同じ。携帯電話向けもほとんど変わらない。

 さらに,NTT電話から直収電話に移行する際は最低でも数千円の初期費用がかかる。通話時間が少ない個人ユーザーには,これが重くのしかかる。ヘビー・ユーザーでない限り,この初期費用を基本料や通話料の削減分で回収するにはかなりの時間がかかるだろう。

 確実にメリットを期待できるのは,新規に電話を敷設するユーザー。直収電話はいわゆる「電話加入権」に相当する施設設置負担金が不要だからだ。東西NTTも「ライトプラン」など施設設置負担金が不要なメニューを用意しているが,通常よりも高い基本料が設定されており,直収電話との差が500円程度と広がる。もちろん,現在ライトプランを利用しているユーザーにも移行メリットはある。

3番号への通話料が無条件でタダというキャンペーンも展開中

 このように考えると直収電話への移行でメリットを享受できるユーザーは限られる。しかし,事業者からすれば設備投資が必要な直収電話はいかにシェアを確保できるかが勝負の分かれ目。そのため,各社は大々的なキャンペーンを行うことで,NTT電話からの乗り換えを促している。

 KDDIは,初期費用と最大2カ月分の基本料を無料にするキャンペーンを展開中。日本テレコムは初期費用を無料にした上で,通話料も割り引くキャンペーンを行っている。通話区分に応じて通話料金を割り引くAプランの場合,3電話番号への通話料が最大1年分無料になるほか,特定時間帯の県内市外/県外の通話料を最大1年間9割引きにする。ユーザーによっては年間の通話料を大幅に削減することが可能だ。

 平成電電は,初期費用などの割引はないものの,東西NTTの電話加入権を3万6000円で買い取るキャンペーンを実施している。電話加入権の価値は,施設設置負担金の値下げで,今や市中では数千円でしか売却できない程度までに暴落した。キャンペーンの適用で最低利用期間が1年から3年に延長されるが,非常に魅力的だ。

 さらにKDDIや平成電電は,月額の定額料を支払えば加入者間の通話が無料になる付加価値サービスを提供している。KDDIの「事業所間定額かけ放題」は法人のみが対象だが,メタルプラスだけでなく,光ダイレクトや光プラス,KDDI-IPフォンへの通話も無料になる。平成電電の「かけ放題」は個人と法人の両方に対応し,加入者同士の通話が無料だ。

 これらのキャンペーンや付加価値サービスを効果的に活用すれば,多くのユーザーにメリットが出る。しかし,逆に言えば,これらをうまく活用しなければ大きなコスト・メリットを出すのは難しいというのが実情だ。

 現在,おとくラインとメタルプラスで提供されているキャンペーンは5月31日申し込み分までを対象としたもの。しかし,冒頭で説明したように,両社とも2005年度は直収電話に注力することを鮮明に打ち出している。キャンペーンは,今後も継続する公算が大きい。さらに魅力的なキャンペーンを新たに始めることも考えられる。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】特集ページはこちらをご覧下さい。

【集中連載・NTT電話は捨てられるか】記事一覧
●(1) NTT電話とはここが違う,使い方によっては大幅安
●(2) ADSLが選べなくなる,直収電話への移行の最大の壁
●(3) 巻き返すNTTグループ,マイライン戦線に異常あり
●(4) 光ファイバ直収もある,企業ユーザーは見逃すな
●(5) 直収の未来は大ブレイクかニッチのままか