気象庁は2006年3月までに,地震の状況を速報するための地震計の全国への設置を完了し,地震の速報体制を整える。「ナウキャスト地震計」と呼ばれる速報用の地震計を九州や,北陸から山陰の日本海側,北海道北部など80地点に設置。既に設置し試験運用している123地点とあわせて,約200地点での全国カバーが実現する。

 ナウキャスト地震計を活用することで,地震の発生予報システムに道が開ける。地震では,震源から先にP波が到達し,その後一般に大きな被害をもたらすS波が襲ってくる。S波の速度は毎秒3キロ~4キロ・メートルとP波のおよそ半分。このため,震源地から50キロ・メートルの地点であればS波の到達までに10秒程度。200キロ・メートルあれば1分程度の時間がある。一般の個人でも,この間にコンロを消したり,机の下や丈夫なビル内に避難するなどの対策をとることができる。

 今のところ,ナウキャスト地震計で測定したデータは,気象庁から試験的に関係機関に配信している。現在,90の機関がデータを試験的に受け取っているが,気象庁は今のところ不特定多数への配信を許可していない。今のところ,三重県や東北大学,リアルタイム地震情報利用協議会などが試験を進めている。ただし,将来,行政,テレビやラジオ,携帯電話など通信事業者を通じ広く一般に地震の“発生予報”が提供される可能性はある。

 気象庁は「現在の震度速報はコンピューター以外に人間が介在し,データを元に精度を高めていくので明らかに間違った情報を排除できる。一方で,ナウキャスト地震計による速報は,基本的に計測した情報がそのまま流れる。本当に精度の高い正しい情報を送り出すことができるのか,まだ試験中で見極めている段階」(地震火山部管理課の斎藤誠即時地震情報調整官)と広く一般への情報配信には慎重な構えである。

 このほか,気象庁は2005年度から2008年度までに,海底にも速報用の地震計を設置する。対象は東海地震の発生が想定される海域である。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション